第212話:表彰式

 学園長であるアミルダが司会を務めているのには驚いたが、他の教師が変な企てをしないとも限らなのだと説明してくれている。

 ならばペリナがいるではないかと思ったアルだったが、会場のどこにもその姿を見つけることができなかったので、もしかしたらアミルダの指示で別の何かをしているのかもしれないと思うことにした。

 表彰式ではベスト8の学生から表彰されていくのだが、ここでもリリーナの時にだけ大歓声が上がったことで本人が一番驚いていた。

 次にフレイヤと棄権した学生の表彰が行われ、最後にアミルダの前へ移動したのはアルとシエラだ。


「──まさか優勝、準優勝が一年次とはなぁ」

「──これ、時代が変わるんじゃねえか?」

「──キリアン様の時にもできなかった魔法競技会優勝もあるかもしれないわよ!」


 そんな声が二階席の至るところから聞こえてくる。

 アルとしては学園代表になれればキリアンの助けになれるのでこの後のことは正直どうでもいいと思っていた。


「……あまり関心がなさそうね」


 そして、シエラから話し掛けられるとは思っていなかったのでこちらの方が気になってしまう。


「……まあな。そもそも、家の事情で学園代表にならないといけなかったから一安心しているところだ」

「……? それなら、ベスト8に勝ち上がった時点で棄権してもよかったんじゃないの?」


 実際に棄権をした学生がいたのでそう考えるのも当然なのだが、アルとしてはトーナメントに参加するにあたり決勝戦に次の目的がいたのだから仕方がなかった。


「参加者の中でお前が一番強いと思ったからな。だから、一度手合わせしてみたかった」

「──! ……そ、そうなの……そうなんだ……うふふ」

「ん? どうしたんだ?」

「いいえ、何でもないわ」

「そういえば、まだ理由を聞いていなかったな。三年前に見かけたって、あれは──」

「シエラ・クロケット!」


 シエラの真意を聞こうとした時、表彰を行うために名前を呼ばれてしまう。

 アルは嘆息し、シエラは肩を竦めながら一歩前に出て歩き出す。


「一年次の君が準優勝というのはとても誇らしく、これからのユージュラッド魔法学園がしばらく安泰だと知らしめてくれたよ」

「それは優勝者に伝えるべきでは?」

「もちろん伝えるさ。だが、私は君にも期待しているんだよ、シエラ・クロケット」

「……ありがとうございます、学園長」


 シエラは学園長から学園代表に与えられるユージュラッド魔法学園のエンブレムが刻まれたバッジを受け取り、副賞として魔獣素材──これもアルが横流しした素材──を受け取り元いた場所へと戻る。


「最後に、アル・ノワール!」

「はい!」


 アルが横目でシエラを見ると、あちらも同じ行動をしており目が合うとお互いに笑みを浮かべる。

 そんな二人の様子を見ていたアミルダは正面にやってきたアルへ笑みを浮かべる。


「あなたたち、いつの間に仲良くなったの?」

「仲良くなったかどうかは分かりませんが、本気でぶつかった者同士にしか分からない何かがあったのは確かだと思いますよ」

「それなら最後の教師や学生とも何か分かり合えたのかしら?」

「先輩はそうかもしれませんが、教師はどうでしょうね。無駄に歳を重ねていますから」

「手厳しい意見ね」

「彼らはそれ相応のことをしましたからね」


 最後にはお互いに苦笑を浮かべて表彰へと戻っていく。

 この際、優勝商品を手渡す場面で『後で返してね?』とアミルダが呟いたことには誰も気づかなかった。


 ※※※※


 表彰式も終了し、第一魔道場には学園代表になった八人の学生とアミルダだけが残された。


「さて、まずは改めてになるが、学園代表の権利を獲得したこと、おめでとう」


 一人ひとりの顔を見渡しながらそう口にしたアミルダは早速本題へと移っていく。


「皆に残ってもらったのには、私から一つの提案をするためだ」

「提案、ですか?」

「その通りだ、リリーナ・エルドア。君たちも見ていただろう、決勝戦を。そして、その後に行われた茶番とも言える無知な教師たちが挑んだ試合を」


 自らの学園で教鞭をとる教師を無知と言い切ってしまうアミルダに誰かがゴクリと唾を飲み込む。


「優勝したアル・ノワールは圧倒的な実力を持っている。彼は一年次でFクラスだが、これは彼の実力が元来の判定基準に即していないからだ」


 レベルが高いからAクラス、レベルが低いからFクラスという至って単純な判定基準のせいで本来の実力が測れていないとアミルダは強く訴える。


「しかし、彼はFクラスになろうとも研鑽を怠ることはなく自らの実力を磨き続けて優勝をもぎ取った。彼と行動を共にしているリリーナ・エルドアが上級生を倒してベスト8に残れたのも彼の指導があったからだろうと私は思っている」


 突然名前が出てきたリリーナは驚いたものの、学生たちの視線が集まったことで一つ大きく頷きアミルダの言葉を肯定する。


「そこで、強制ではないが皆にはアルの指導を受けてもらいたいと思っている」

(……まだ依頼を受けるとは言ってないんだけどなぁ)


 話を勝手に進めてしまっているアミルダにジト目を向けるアルだが、当の本人は完全無視を決め込んで他の学生たちへ視線を向ける。

 結果として、アミルダの提案には賛否が飛び交った。

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