第211話:シエラとの会話
仲間たちの歓声は徐々に周りへと伝播していき、大きな波となって広がっていく。
そして、気づけばほとんどの学生がアルの勝利に歓声をあげていた。
「……その、すまなかった」
「本当にすまない」
「いや、いいんですよ。先生方に参加を促されたのでしょう?」
アルに謝罪を口にしたのは試合をしていた学生の二人だった。
悪いのは騒動に学生を巻き込んだ教師であって彼らではない。
謝罪を受け入れるという意味で握手を交わすと、そのまま舞台を離れていった。
「アル……」
「お疲れ様です、ヴォレスト先生」
呆れた感じです声を掛けてきたアミルダに振り返ると、何故かその表情も声音と似たものになっている。
何かしただろうかと首を傾げていると、その答えはすぐ口にされた。
「やり過ぎよ」
「やり過ぎなのは先生方だと思いますよ。たった一人の相手にレベル4の魔法を殺到させて、さらに外部からも闇属性魔法を放つものもいました」
そんなアルの発言に一瞬だが驚いた表情を浮かべたものの、『やはりか』と小さな呟きと共にとある場所をアミルダが睨んだ。
「ひいっ!」
「……アル、ごめんなさい。警戒はしていたんだけど、舞台上に意識を集中させ過ぎていたわ」
「いいんですよ。それに、スプラウスト先生から貰っていた指輪が役に立ちましたし」
闇属性耐性を持つ魔法装具のおかげだとアルは言うが、実のところ魔法装具が無くても今のアルなら耐えることはできただろう。
それでも無いよりはある方が楽に耐えることができるので間違いでもなかった。
「あちらにも私からきつく処罰を下しておこう。さて──」
一度言葉を切ったアミルダはアルから離れて再び拡声魔法を使う。
『この場に今の試合結果を疑うものはいるだろうか! もしいるならば前に出てこい、何がどのように疑わしいか明確な証拠を持って説明してもらおうか!』
再び試合を行うならば出てくる者もいたかもしれないが、疑いの理由を説明しろと言われればそうはいかない。
今回の試合もそうだかいかさまなど何一つ無いのだから、仮に出てくる者がいたならば全てを嘘で塗り固め、なおかつ齟齬が出ないよう理由を考えなければならない。
そんなことができる人物が、この場にいるはずもなかった。
『……いないのならば、改めて宣言させてもらう。トーナメント戦の優勝者は──アル・ノワールだ!』
アミルダの宣言を受けて、今度は一斉に歓声があがった。
試合を勝ち上がっていく間は野次に対してなんの感情も抱いてはいなかったが、全てが終わり歓声という真逆の言葉を受け止めると感慨深いものがあることにアルは気がついた。
「……ちっ!」
もちろん、アルが見せた戦い方に納得していない者も中にはいる。特に貴族派の人間はこの場だけの拍手は送っているもののその表情は明らかに固い。
今後もトラブルの種になりかねないと考えるとわずかばかり気持ちが滅入ってしまう。
「安心しろ。次の大イベントが起きる頃には、多くの貴族派が失脚するはずよ」
「そんなイベントなんてありましたっけ? ……あー、ヴォレスト先生、まさか?」
アルが何やら不穏なものを感じて問い掛けたものの、アミルダがそれに答えることはなかった。
その代わりに拡声魔法で表彰式を進める旨と、学園代表になった学生は第一魔道場に残るようにと伝えられた。
「……はぁ。どんな反応が返ってくるのやら」
一抹の不安を抱えながら、アルはそのまま表彰式に参加した。
※※※※
表彰式には当然ながら決勝戦で相対したシエラの姿もある。
勝った負けたの試合をしたばかりで並び立つのには気が引けるものの、アルはいい機会だと考えることにした。
「なあ、シエラ・クロケット。俺が勝ったんだから、敵視する理由を教えてくれないか?」
「……」
「それが分からなければ、改善もできないし何かしていたなら謝ることもできないぞ?」
「……」
何も答えてはくれないかと諦め掛けたその時、シエラは嘆息すると重い口を開いた。
「……貴様はどうしてFクラスにいるの?」
「……どうしてと言われても、学園側が決めたことだからどうしようもないだろう」
当然の答えを口にしたのだが、シエラは何故か納得してくれない。
「私は、貴様とAクラスで切磋琢磨するためにここまでやって来たんだ。それなのに、それだけの実力を持っていながら、何故Fクラスなんだ!」
「そんなこと言われてもなぁ……だが、その言い方だと俺と何処かで会ったことがあるのか?」
アルには心当たりがなく、シエラへ素直に聞くしかなかった。
「三年前に貴様を……いいえ、あなたを見かけたの」
「三年前?」
さらに謎が深まる中──表彰式は始まった。
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