第210話:五対一の試合

 アルの対戦相手はジャックを含めた教師三人と学生が二人。

 学生の方は二年次のAクラス、ジャックが声を掛けたのだ。

 二年次のトップであるジーレインが負けたのだから上級生から選抜するべきなのだが、ジャックがゴリ押しで選んでしまった。

 残る教師二人は嫌な顔をしたものの、一対五であれば二年次が混ざっていようと関係ないだろうと高を括っていた。


「アル、準備は……って、それを使うの?」

「はい。思う存分に振れそうですからね」

「……はぁ。あいつらに同情するわね」


 アルの武装を見て嘆息するアミルダだったが、アルとしてはその態度は心外だった。


「元はと言えば、ヴォレスト先生が仕組んだことなんですからね?」

「分かっているわ。だから止めないけど……本当に、程々にね?」

「仕方ありませんね。先がある学生二人には手加減しますか」


 学生の二人はジャックに言われて仕方なく参加している。

 こちらも一対五ならばと思って参加しているので叩きのされても文句は言えないのだが、アルのちょっとした気遣いだった。


「でも、教師の方には全力で挑まさせてもらいます。下手を打てば俺が負けるかもしれませんからね」

「そうはならないと思うけど……まあ、大人が子供の未来を奪おうと言うのだからやられても仕方ないか」


 説得を諦めたアミルダは控え室から舞台へと促す。

 すでに対戦相手の五人は舞台上で待ち構えている。

 アルの武装を見たらどのような反応を示すのか、今から楽しみだと内心で考えていた。


 案の定、対戦相手は驚きと怒りの感情を露わにしてアルを睨みつけていた。


「貴様、決勝戦を汚しただけではなく、この試合まで侮辱するつもりか!」

「まさか。これが本来の俺の戦い方だ。過去の産物と言うのなら、最先端の戦い方をしているあなた方なら勝てるでしょう?」


 軽い挑発の効果は覿面てきめんだった。

 あまりやる気のなかった学生は拳を握りしめ、教師二人は顔を真っ赤にしている。

 当然、ジャックも怒り心頭で体を小刻みに震わせていた。


「……いいだろう、ここから先は、どれだけ謝ろうとも許してやらんぞ!」

「俺としても、その方が気兼ねなく戦えるから助かりますよ」


 ニコリと笑ったアルにさらなる怒りを覚えながら、五人が構えをとる。

 アルは不適な笑みを浮かべながら、アルディソードを抜き放つ。


「さて、暴れようか」


 審判を務めるアミルダは横目でアルを見ながら右手をあげる。そして──


「試合開始!」


 開始と同時に火、水、木、土、光の五属性の攻撃魔法がアルへと降り注ぐ。

 全てを避けることも可能だった。

 しかし、それをしなかったのは過去の産物だと揶揄されている剣術の実力を証明するため。


「マリノワーナ流剣術──疾風飛斬しっぷうひざん!」


 鋭き振り抜かれたアルディソードから放たれたのは魔法ではない飛ぶ斬撃。

 一瞬にして五度も振り抜かれると全ての魔法が切り裂かれて霧散する。


「何!?」

「ど、どんな魔法なのよ!」

「まだまだ撃ち続けろ!」


 魔法ではないと否定したかったが、立て続けに魔法が放たれるので仕方なくアルもアルディソードを振り続ける。

 全く同じ光景が一分ほど続くとさすがに意味がないと理解したのか、今度は狙いを変えて魔法が放たれてくる。


「最大火力の魔法を放て!」

「こうなったら手段は選べないわ!」

「ぶっ飛ばしてやる!」


 ちなみに、悪態をついているのは三人の教師である。

 学生の二人は薄々気づき始めている──アル・ノワールには勝てないことを。

 それでもジャックがいるために手を抜くこともできず魔法の準備に取り掛かる。


「レベル4の魔法が五つか」

「くくくくっ、降参するなら今のうち──」

「面白いじゃないか!」


 降参を促そうとしたジャックの言葉を遮るようにして、獰猛な笑みを浮かべたアルが言い放つ。


「い、いいだろう、やってやるぞ──放てええええぇぇっ!」


 ジャックの合図を皮切りにそれぞれが最大火力の魔法を解き放つ。

 アルディソードを構え直したアルは魔力の流れを感じ取ると、あろうことか魔法の弾幕が張り巡らされている前方へと駆け出した。

 アルのことを知らない周囲の人間は自殺行為だと笑っただろう。

 しかし、アルと共に行動していた面々からすると、これで面白くもない茶番が終わるのかと安堵の息を吐き出してた。


「一つ」

「ぐあっ!」


 突然、一人の教師が悲鳴をあげて倒れてしまう。


「な、何が起きた!」

「二つ」

「があっ!」


 もう一人の教師も白目を向いて崩れ落ちる。


「ま、まさか、あの弾幕を抜けて来たというのか、あり得ない──」

「三つ」

「げばあっ!」


 首筋にヒヤリと刀身が当てられたかと思った瞬間にはジャックの意識は刈り取られていた。

 白目を向き、泡を吹いて倒れている三人の教師を目の当たりにした残る二人の学生は即座に両手を上げて降参を示す。


「勝者──アル・ノワール!」


 そして、アミルダから勝者の名前が告げられると仲間たちから大きな歓声が上がったのだった。

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