第209話:批判と提案
トーナメント戦はアルの優勝という形で――終わらなかった。
それは何故か? 最後にアルが見せた攻撃手段が魔法ではなく手刀により気絶させたことが原因だ。
貴族という立場を享受している学生や貴族派の教師がこぞってアルが反則を犯したのだと言い張った。
そこに立ちふさがったのはリリーナたちやガルボパーティの面々、そして学園長であるアミルダだ。
「こんな茶番が許されてたまるか!」
「そうよ、そうよ!」
「過去の産物を持ち出した奴らは反則だろ!」
しかし、数に勝る貴族派が声を荒げるだけでアミルダの言葉は掻き消されてしまう。
いくら学園の最高責任者であっても、半数以上の学生や教師から批判を浴びてしまうと声も届かない――かと思われた。
『——黙らっしゃい!!』
闇属性魔法を改良したアミルダのオリジナル魔法である拡声を用いて、第一魔道場になだれ込んできた全学生と教師に怒声を響かせた。
まさかアミルダの声が聞こえてくるとは思ってもいなかったのか、先ほどまで騒いでいた者たち全員が口を閉ざしてアミルダへ視線を向けている。
『お前たちは戦場でも同じようなことが言えるのか? あぁん! 魔法競技会は舞台の上での戦いだ、敵が目の前にいる戦いだ! そんな状況下でもお前たちは魔法を使え、過去の産物だと言ったら敵が手を止めてくれると思っているのか! あぁん!』
まるで裏稼業の人間かのような口調で捲し立てるアミルダに全員が唖然としているものの、話の内容を聞いて文句を言える人物が誰ひとりとして出てこない。
『魔法師だから戦場に出ない? あり得ない! 戦争となれば魔法師も冒険者と同様に駆り出されるぞ!』
「……ふ、ふざけるな! ま、魔法師は、冒険者とは違うぞ!」
「そ、そうだ! 冒険者は俺たちの盾だ、あいつらがいれば俺たちが戦場に立つことは――」
『どうしてあり得ないと言い切れる? 他国では、私たちが過去の産物と罵っている武術の騎士団を要しているというのに!』
「それは、他国がカーザリアよりも遅れているからだろう!」
『ならばお前たちは目の前までやって来た武術を扱う敵を相手に後れを取ることはないと言いたいのか?』
「その通りだ!」
「魔法師が過去の産物に負けるはずがないわ!」
「そうだ、そうだ!」
ここにきて再び『そうだ、そうだ!』の大合唱である。
しかし、これだけ言葉を尽くしても納得しないのであれば致し方ないと、アミルダは横目でアルを見る。
そのアルは嘆息しつつも一度だけ大きく頷いた。
『ならば、ここにいる者たちから代表者を五人選抜し、アルと試合をしてみるか?』
アミルダの言葉に貴族派は驚愕の表情を浮かべてアルを見る。
その瞳には驚きだけではなく嫉妬や侮蔑、そして舐められているという憤怒の感情が見え隠れしていた。
しかし、普通ならばここでアルから却下の声があがっても良いのだが学園長室に呼び出された時にこのことについても話をしていた。
きっと、アルの優勝に文句を付ける者が出るだろうと。そして、そいつらを叩きのめして大手を振って優勝者だと名乗りを受けろと。
だが、手刀を使っただけで半数以上の学生や教師が反対の声をあげるとは思ってもいなかったので、アルとしては実のところ想定外の事態になっていたのだが。
「なんなら、五人と言わずもっと多くてもいいですよ?」
だが、アルはこの機会をチャンスと捉えている。
複数の相手に戦える機会などめったになく、さらに今の状況を考えれば剣術を使っても文句を言われないだろうと考えていた。
「……な、舐めた口を利きやがって!」
「ならば、選抜は我々教師が出てもいいということだな!」
「人数も一〇人でも二〇人でもいいんだな!」
今度はアミルダの方が予想外だった。
選抜はあくまでも学生、人数も五人と制限を掛けるつもりだったのだが、アルの一言によってその全てが崩れ去ったのだ。
「構いません。その方が皆さんも納得してくれるでしょうし」
だが、アルはあっけらかんと言い放ち教師の参戦と人数制限なしを受け入れてしまった。
「いいだろう。貴様のその面を叩き潰してくれる!」
そう告げてきたのは二年次Aクラスの担任を務めているジャックだった。
ヴィンスとジーレインが負けたことに腹を立てて見当違いの文句を言ってきたジャックは、アルに対して嫉妬にも似た感情を抱いている。
そして、アルが反則負けとなれば負けた二人が学園代表になることも難しくないと考えていた。
「……アル、手加減を頼むぞ?」
「まさか。俺は思う存分戦わせてもらいますよ」
小さな声でそう口にしたアミルダだったが、その願いは聞き入れられそうもないと嘆息するのだった。
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