第204話:トーナメント戦⑭

 学生を指導するというアミルダからの提案には保留とだけ答え、アルは学園長室を後にした。

 アミルダの真意を聞くことはできたものの、到底納得できるものではなく本当にユージュラッドだけで対応できるのかも定かではない。

 すでにレオンやユージュラッドの有力貴族には伝わっているようだが、そのうちどこかから反発が起きるだろうというのがアルの考えだ。

 第一魔道場に戻る途中、試合を終えたフレイアを伴ったガルボたちと合流した。


「もーっ! どうしてこのタイミングで呼び出しなんかくらうのよー!」

「文句は俺じゃなくてヴォレスト先生にお願いします。それと、代表内定おめでとうございます」

「まあまあ。それで、いったいどういった話だったんですか?」


 憤慨するフレイアを宥めながらフォルトが問い掛ける。

 アミルダには信頼できる者になら口外しないという約束で情報共有を許されており、彼らなら問題はないだろうと判断した。

 しかし、学園の廊下や食堂などといった人通りの多い場所で話すような内容ではない。

 どこかいい場所がないかとアルが思案していると、ガルボが肩を叩いて親指で合図を出すと歩き出した。


「どうしたんですか、ガルボ兄上?」

「どうせろくでもないことなんだろう。フォルトがいれば会議室を借りられるから、そこで話をしよう」

「それもそうですね。それじゃあ、僕は先に行って会議室のカギを借りてくるよ」


 笑顔のフォルトが一人離れていき、残る面々はガルボの案内でその会議室へと向かう。

 会議室は職員室の上の階に位置しており、普段は教師や卒業を控えた学生が自習をする時に使われることが多い。

 今日に限って言えばトーナメント戦が行われるということで誰ひとりとして利用者はいなかった。


「お待たせ。それじゃあ中に入って話を聞かせてもらおうかな」


 フォルトが多くある会議室のカギを片手に戻ってくると、そのうちの一部屋に入っていく。

 そこでアルは学生への指導について、フェルモニアという魔獣について、そしてスタンピードが起こるかもしれないということを説明していく。

 指導の件では笑みが零れる者もいたのだが、Sランク相当のフェルモニアやスタンピードの話になると表情をこわばらせて無駄な会話は一切なくなってしまう。

 そんな中で口を開いたのは王都とつながりを持つフォルトだった。


「僕の立場からすると学園長の意見には反対だな。魔獣のスタンピードというのは一都市を滅ぼすだけではなく、対処が遅れれば国が転覆する恐れだってあるんだからね」


 王都へ情報を送り、そして国を挙げて対処するべきだと意見を口にする。そして、この意見が世間一般的なものだろう。

 この場にいる誰もがフォルトの意見に頷き、ここだけの話にするにはあまりに大きな問題だと口にする。


「だが、ユージュラッドの有力貴族には情報が入っているんだろう? ここで俺たちがどうこう言ったところで、決定するのは各家の当主様だろう」

「そうなんだけどね。一応、情報として先に知れたのはありがたいことだね」

「ミリオン家にも情報は入ってるだろうし、帰ったらお父様に聞いてみようかしら」


 ユージュラッドの上級貴族であるミリオン家のフレイアはそんなことを口にする。

 そして、流れで口にされた言葉にアルは困惑を隠しきれなかった。


「でも、最初に言ってた弟君に指導してもらうってのはありだわね」

「本当に、迷惑極まりない……って、いやいやいやいや、ダメでしょう! 下位貴族のFクラスですよ!?」

「おい、アル。それはノワール家を卑下してるのか?」

「そうは言いますけどね、ガルボ兄上! ミリオン家と比べたら家格は圧倒的に下ですよ!」


 仮に家格が下で一年次でFクラスの学生が、家格が上で上級生のFクラスを指導するなんて言えば家同士で問題が生じることも考えられる。

 いくらアミルダ主導とはいえ納得してもらっては困る案件なのだ。


「ですが、私はアル様に指導していただいてここまで強くなれました!」

「それは私も同じかなー」

「俺も俺も! 特に剣術はヤバいくらいに上達したかも」

「私もキースも、上達してる」

「僕たちだけでも五階層までは行けるようになりましたからね」


 リリーナやクルル、さらにエルクたちまでアルの指導を称賛し始めた。


「ちょっと、止めてくれ。それは俺ではなくてチグサさんとの模擬戦が――」

「そういえば、アンナの魔法も相当上達していたな。あの様子だと、俺をあっという間に超えていきそうだぞ」

「ガルボ兄上まで!」

「うーん、そういうことなら僕もトーナメント戦に立候補しとけばよかったな」

「私は同意してるからよろしくね、弟君!」

「……俺が依頼を受けるとは限りませんからね!」


 少しやけくそ気味になりながらアルは言い放ち、盛大に溜息をついたのだった。

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