第205話:トーナメント戦⑮

 ――そして、ついに三回戦の開始時間となった。

 三回戦の第一試合はアル対リリーナ。

 一年次同士の対戦ということで人気はないかと思いきや、今まで同様に二階席は多くの学生で埋まっている。


「――リリーナさん、頑張れー!」

「――リリーナ様ー! 美しいですわー!」

「――そんな奴、縛り首にしちまえー!」


 あまり嬉しい声援ではないのだが、ほとんどの学生がリリーナを応援するために集まっている。

 アルに対する声援はどこからも聞こえることなく、舞台上で嘆息してしまう。


「な、なんだか申し訳ありません、アル様」

「いや、いいんだけどな。しかし、リリーナのファンがものすごく多いな」

「どうしてこうなったのか、私にもさっぱりなんです」


 二回戦では罵声も浴びせられていたのだが、試合終了後にラーミアと握手を交わしたことで試合内容が吹き飛び正々堂々な試合をしたという印象が植え付けられて人気が増している。

 故に、ここまでずっと批判の的になっているアルとは対象的であり、今まで同様に完全アウェイな状況となっていた。


「まあ、試合が始まれば全力でぶつかるだけだがな」

「胸をお借りします!」

「では、始めようか」


 お互いに杖を構えたことで審判が手を上げ――振り下ろした。


「初手は譲ろう」

「ツリースパイラル!」


 アルの声を聞いてか否か、リリーナは心の属性である木属性魔法を発動させる。

 しかし、直接攻撃するわけではなく舞台を自らのフィールドにするつもりで発動させていた。


「……ほう、面白い使い方を考えたな」


 レベル2のツリースパイラルでこれほどの事を成し遂げるなど、到底思いつかないだろう。

 何故なら舞台を覆い隠すように森が現れたのだ。

 似たような魔法は木属性の中にもあるが、それはレベル4やレベル5に類する魔法であり、レベル2で再現できるものではない。

 それを再現してしまったということは、リリーナの実力が入学時よりも格段に上がっている証左でもある。


「だが、魔力は一気に底を尽くんじゃないのか?」


 ツリースパイラルは一定範囲に植物を顕現させて自由に操る魔法である。

 しかし、それは自らが顕現させた植物に限らず自然に生えている植物でも操ることが可能だ。

 ここが森であればこれほど無理をすることはなかったが、その無理を押してでも疑似的な森を作り出した。


「こうすれば、小さな魔力でも、多くの植物を操れますから!」


 言葉を途切れさせながらも、リリーナは魔法の意図をあえて口にしてアルへと襲い掛かる。

 蔦や枝が伸びて絡め捕ろうとするが、アルはその場から移動して回避する。

 それでもさらに伸びて追い掛けてくるのだが、着地した周囲の植物も動き出した。

 相手が得意なシチュエーションで魔法師と相対するのは自殺行為だと言われているが、アルは今まさにその言葉を体感しているところだ。


「ファイアボール」


 しかし、リリーナが木属性に特化した魔法師であれば、アルは全ての属性に対応できる魔法師である。

 相性を考えて火属性を操ることもできれば、土を抉り取って植物を排除することも可能だ。

 さらに言えば――木属性で同じ魔法を行使することだってできてしまう。


「……あ、あれ?」

「驚いたか?」


 先ほどまでアルを絡め捕ろうと動いていた蔦や枝がリリーナの意思で動かなくなると、次いで全く意図しない動きをして自らに襲い掛かってきた。


「くっ! な、なんで、どうして!?」

「ツリースパイラルを切り離した時点で、舞台に生えている植物は誰の管理下にも置かれていない。ならば、俺が操ることも可能じゃないか?」

「はっ!」


 アルの言う通りだった。

 木属性でしか対抗できないと考えた渾身の策ではあったが、アルは木属性ですらリリーナを上回る魔法を行使してきたのだ。

 それはただ周囲の植物を操るだけではなく、リリーナが操っていた植物の支配を上塗りして奪い取ってしまった。

 心の属性である木属性ですら、魔法師として完全に上をいかれてしまったのだ。


「この戦い方ができるなら、上級生にも他の学園にも後れは取らないだろう。今回は――相手が悪かったな」

「……降参です」


 リリーナが降参すると、審判はアルの名前を高らかに告げて勝利者宣言を行った。

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