第201話:トーナメント戦⑪

 第四試合を見終わり、いよいよ第五試合の開始となった。

 シエラの対戦相手は三年次のAクラスであるナッシュ・ストレインは、去年の魔法競技会でユージュラッド魔法学園の代表を務めた学生である。

 それ故に本人もそうだが会場にいる学生たちもナッシュが勝ち上がるために一年次との組み合わせを選んだのだろうと思っていた。

 しかし、ナッシュはそんな思いをシエラと対峙した途端に霧散させて気を引き締め直していた。


(……こいつ、何者だ? 俺を殺すつもりじゃないだろうな?)


 その体から溢れ出す殺気が尋常ではないことに気がついたからだ。


「……あいつと戦うまでは、負けられないのよ」

「あいつだと? 目の前にいる俺は無視なのかね」

「敵じゃないから」

「こいつ!」


 苛立ちはしたものの頭の中は冷静を保ち、ナッシュは魔法装具である杖を構える。

 一方のシエラはというと魔法学園には似つかわしくないものを抜いて逆手に構えた。


「……おい、ふざけているのか! お前が構えているものが何なのか分かっているんだろうな!」

「当然でしょう?」

「こいつ! いいだろう、魔法学園で過去の産物紛いを持ち出したこと、後悔させてやる!」


 シエラは逆手に構えたナイフを握り、真っ直ぐにナッシュを見据えている。

 この姿勢が構えなのだと審判が気づくと慌てて右手を上げた。


「そ、それでは、試合――開始!」


 ナッシュは初手から全力の攻撃を発動させた。

 心の属性である木属性。さらに魔法装具で底上げされた魔力によってレベル4の魔法を最大のレベル5へと昇華させる。

 レベル5の木属性魔法——ウッドマン。

 人の形を模した植物がナッシュの周囲に四体現れると、それぞれが剣、槍、斧、盾を手にしてシエラへと襲い掛かる。

 しかし、その攻撃が届く前にシエラの魔法がうなりを上げた。


「ライトブレイド」


 ナイフが振り抜かれたのと同時に光属性のレベル4魔法である光の刃が放たれてウッドマンを両断してしまう。

 それが一刃ではなく、全てのウッドマンへと襲い掛かったものだからナッシュの焦りは相当なものだっただろう。

 魔法装具で魔力を底上げしているとはいえ、レベル5の魔法は大量の魔力を消費してしまう。

 こうもあっさりとウッドマンが倒されると思っていなかったナッシュとしては出鼻をくじかれただけではなく、この後のプランなど何も考えていなかった。


「……ねえ、もう終わりなの?」

「な、舐めるなよ!」


 シエラの挑発にあっけなく乗っかったナッシュは残りの魔力を注ぎ込みもう一度ウッドマンを発動させる。

 このウッドマンだが、戦術に精通している者が使えば非常に有効な魔法となり得る。自らの意思で自由に動かせるので連携も意のまま、そして魔法師は安全な場所からその様子を見ていられるのだから。

 しかし、ナッシュは戦術に疎かった。ただ闇雲にウッドマンを飛び込ませているだけなのだ。

 動きは単調となり、そうなれば少し優秀な魔法師であれば対応も可能。

 そして、シエラは少しどころかとても優秀な魔法師だった。

 飛び込んでくるウッドマンを再びライトブレイドで仕留めつつ、どのようにして勝利を手にしようかをも考えている。

 戦いながら考えを巡らせることができる魔法師は貴重だ。貴族からは良く思われないが。


「もう、飽きたわ」

「ひ、ひいいぃぃぃぃっ! や、止めろおおおおぉぉっ!」


 貴族の無意味な矜持か、はたまた誇りか。

 ナッシュは降参と一言口にすればいいものを、その言葉が喉から出てこないのか両手をだらしなく前に出して懇願する。

 そのような懇願に手を止めるわけもなく、シエラのライトブレイドがナッシュの体を両断した。

 白目を剥き、泡を吹きながら倒れたナッシュを見た審判が声をあげる。


「試合終了! 勝者――シエラ・クロケット!」


 二階席からは歓声とブーイングが半々といった感じでシエラに注がれる。

 歓声は一年次の学生や戦い方を称賛した者から、ブーイングはナイフという過去の産物を持ち出したことによる嫌悪感から注がれている。

 よくよく考えればその戦い方はシエラの魔法を見れば理に適っているのだが、そこまで深く考えることができない者が魔法学園とはいえ多く存在している証左だった。

 しかし、シエラはそのようなことを気にも留めずにたった一人の学生を見つめている。

 その見つめていた人物と目が合うと、ナッシュに向けていたものとは桁違いの殺気をぶつけて舞台上を後にした。

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