第200話:トーナメント戦⑩

 リリーナの勝利を見届けたアルたちはそのまま合流すると昼食を食べるために食堂へと移動していた。

 本来ならば二回戦が全て終了してから時間が取られるのだが、アルが上級生から悪く見られている状況で人が集まる場所へ行くと無駄なトラブルに巻き込まれるかもしれないのでこうして早めの昼食をと考えたのだ。


「よかった、人はほとんどいませんね」

「でもよー、アルだったら文句を言われてもその場で叩きのめせるからいいんじゃねえか?」

「エルク、野蛮すぎる」


 エルクたちがそれぞれに意見を口にする中、全員分の注文が終わるとテーブルに移動して食事を開始する。


「それにしても、リリーナは随分と戦えるようになったじゃないか」

「いえ、アル様に褒めてもらえるような実力には程遠いですよ」

「でもさ、これでリリーナも学園代表になれるわけだし、今年は一年次からも結構出てくるんじゃないかしら!」


 クルルの言う通り、これでリリーナは代表8枠を確保したことになるのでユージュラッド魔法学園の代表に内定した。

 残る一年次の生徒は二人いるので、全員が残ることになれば代表の半分が一年次という異例の事態になる。


「それはどうかしら。弟君は規格外として、そんな規格外とパーティを組んでいるリリーナちゃんが成長しただけで、他の一年次がどうかは分からないわよ?」

「確か第三試合に残っていた一年次の学生は、一回戦でも同じ一年次の学生と当たっていたからな」

「だが、第五試合に残っている一年次は三年次のBクラスの学生を相手に圧勝していたな」


 最後のガルボの話を聞いたアルは一人、頷いていた。


(第五試合ということは、シエラ・クロケットのことだろう。そこには間に合わせて第一魔道場へ戻らないとな)


 そこまで考えて、アルはちょっとした疑問が頭に浮かんで顔を上げる。


「ちょっと、フレイヤさん。今の言い方だと俺が変な奴みたいに聞こえますけど?」

「あら、褒めたんじゃないのよ。規格外だって」

「それって褒めてるんですか?」

「当然じゃないの。規格外なんて言葉、普通の学生には使わないんだからね」


 フレイヤが言うと何故かそうは聞こえないので疑問に思いつつも頷くことにしたアルは、話題を変えるためにリリーナへ視線を向ける。


「三回戦は俺とリリーナの試合からだな」

「そ、そうですね! 胸を借りるつもりで頑張ります!」

「いやいや、同じ一年次だからな?」


 冗談を交えながら楽しそうに話をしていたのだが、そこへ意外な人物から声が掛けられた。


「あーっ! いたいた、リリーナちゃんにガルボさんの弟さん!」


 先ほどまでリリーナと舞台上で戦っていたラーミアが食堂の入り口から大声で話し掛けてきたのだ。

 一年次の六人はリリーナを除いて驚いた顔をしており、四年次の三人は苦笑を浮かべている。


「お、お疲れ様です、ラーミア様!」

「あはは、様付けとかやめてよねー。私は平民なんだから!」


 椅子から立ち上がってお辞儀をしたリリーナに笑いながらそう返したラーミアは注文もせずにそのまま同じテーブルに腰掛ける。


「何をしに来たんだ、ラーミア」

「ガルボさんの弟さんに話を聞きに来たんだよ!」

「お、俺にですか?」

「そういえば、試合中もそのようなことを仰っていましたね」


 リリーナが思い出したようにそう口にすると、ラーミアは元気よく、煩いくらいに大きな声で返事をする。


「そうなのよ! いやー、冒険者を目指している身としては、弟さんの戦い方が気になっちゃってねー。それに、リリーナちゃんも貴族の魔法師とは思えない戦い方をするじゃない? もう気になって気になってさー!」

「俺も冒険者を目指しているんです。ラーミアさんは冒険者を目指しているんですね」

「そうなのよ! だからさー、卒業するまでの間にできるだけ一緒に行動できたらなーって思ったのよ!」

「……おい、ラーミア。それはアルとパーティを組みたいってことか?」

「おぉっ! さすがガルボさん、話が早い!」


 学年違いでパーティを組むこともないわけではない。

 しかし、冒険者志望の学生は卒業後も同じパーティで活動することが多いので実際はあまり見かけないことも事実だ。

 とはいえ、長くなるだろう冒険者生活において人となりを知らない相手と臨時でパーティを組むこともあるので一概に学年違いでパーティを組むことが悪いということもなかった。


「時間が合う時でいいからさー、一緒にダンジョンに潜ってくれないかなー?」

「えっと、それはどうでしょうか……」


 パーティの話を一人で決めるわけにはいかない。

 アルは視線をリリーナとクルルに向けたのだが、その二人は特に考える素振りもなく頷いた。


「あの、私は構いません。ラーミア様の戦い方は私の勉強にもなりますので」

「私も構わないわよ。人数は多い方がいいこともあるし」

「……えっと、俺たちは全然構わないんですが、ラーミアさんのパーティの方々はどう思っているんですか? その、俺は嫌われてますから」


 自分で言うのは気が進まないが、やはり確認しておかなければならない。

 臨時とはいえアルとパーティを組むことで、本来のパーティメンバーとの関係が崩れてしまうのであれば断ることも必要だと考えていた。

 だが、ラーミアの答えは至極単純なものだった。


「大丈夫よー! 私、この人っていうメンバーを決めてないからねー」

「……そ、そうなんですか?」

「だって、冒険者になったら知らない人とパーティを組むことも多そうだもの。パーティ訓練の時は毎回、余った人と組んで潜ってるしねー」


 学年違いでパーティを組む学生が珍しいのと同じくらいに、特定の人とパーティを組んでいない学生もまた珍しい。

 珍しいことだらけのラーミアだが、だからこそ本気で冒険者として生きていく覚悟をしているのだとアルには伝わっていた。


「分かりました。そこまで言うなら、むしろ俺からお願いします。色々と教えてください」

「やったー! ありがとう、弟さん!」

「……アルです」

「そうだったね! ありがとう、アル君!」


 ラーミアはアルを探していただけのようで、パーティの約束を取り付けるとすぐに食堂を去ってしまった。

 嵐のような人だと思いつつ、廊下から歓声が聞こえてきたので第三試合が終わったのかもしれないと急いで食事を終わらせると、そのまま第一魔道場へと戻っていった。

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