第199話:トーナメント戦⑨

 アルたちが二階席に戻ってきたタイミングで控え室からリリーナが舞台へと姿を現した。

 対戦相手は四年次でBクラスのラーミア・ソクルテル。

 彼女の情報はガルボたち四年次の学生から話を聞いていたのだが、将来は冒険者を目指しているらしく魔法学園では珍しい動きながら戦う魔法師である。

 そんなラーミアだが、リリーナと目が合うとニコリと笑い友好的な態度で声を掛けてきた。


「あなたの一回戦は見させてもらったわよ。貴族なのに動きながらだなんて、正直驚いたわ」

「私のパーティリーダーが冒険者を目指しているので、その動きを真似てみたんです」

「確かガルボさんの弟さんだよね? 有名人のパーティって、大変じゃないの?」

「いいえ、魔法についてもそうですけど、魔獣との戦い方についても指南してくれるのでとても助けられているんです」

「へぇー……うーん、ガルボさんにお願いして私も話してみたいなぁ」

「……?」


 突然考え込んでしまったラーミアに首を傾げていると、今が試合前だということを思い出したのか慌てて顔を上げると苦笑を浮かべる。


「おっと、ごめんねー。考え事をするとすぐに周りが見えなくなっちゃうのよ」

「は、はぁ」

「……あのー、そろそろ試合を始めてもいいかな?」

「「あっ! ご、ごめんなさい!」」


 審判から声が掛けられたことで二人同時に謝り、そして杖を構えて準備を終わらせる。


「ゴホン! では――試合開始!」


 開始と同時にお互いが魔法を発動させたのだが、これが意外な展開となる。


「「アースウォール!」」


 お互いが土の壁を至る所に作り出して視界を遮り、魔法師とは思えない動き回る展開となったのだ。

 魔法師の戦い方は単純な魔法の撃ち合い、と言われている。

 数で押し込むのか、一発の強力な魔法で終わらせるのか、中には闇魔法で意識を奪ってから魔法を放つ、なんて考える者もいる。

 どれをとっても魔法を撃ち合いなのだが、姿を隠して移動しつつ魔法を放つという方法は推奨されていない。


「おいおい、これじゃあ暗殺者の戦い方じゃねのか?」

「貴族令嬢の戦い方じゃないわよねー」

「もっと派手にドンパチやれよー!」


 二階席からはそんな野次が飛んでくる始末だが、リリーナもラーミアも気にするそぶりを全く見せていない。

 それだけ試合に集中しており、その集中が途切れてしまえば一瞬で負けてしまうとお互いに理解しているのだ。


「まさか、貴族令嬢がこんな戦い方をするなんてねー!」

「ダンジョンでは何があるか分からないので、一対一の戦い方も習っていたんです!」


 挑発のつもりだったが、リリーナはこの戦い方に誇りを持っている。

 あえて挑発に乗り返事をすることでこちらの居場所を教えて誘い込む。リリーナは頭の中でラーミアとの遭遇戦をイメージしながら仕込みを行っていく。


「へぇ、やっぱりガルボさんの弟さんに会ってみたくなっちゃったなー!」


 そこへラーミアが飛び込んできた。


「ウォーターアロー!」

「甘いわね、アースアーマー!」


 ウォーターアローが貫く前にラーミアの体を土の鎧が包み込み霧散させてしまう。


「魔法師が近づいて戦うなんて、考えたこともなかったでしょう! でも、これが私の戦い方、アースアーマーがあれば私は接近戦ができる魔法師に――」

「そこ、ぬかるんでますよ?」

「えっ?」


 魔法師は知らず知らずのうちに心の属性を初手に使いたがる習性がある。

 もちろん全ての魔法師がそうではないが、リリーナはラーミアがそうであると確信を得ていた。

 それは、ラーミアがリリーナと一回戦を見ていたのと同じように、リリーナもラーミアの一回戦を見ていたからだ。

 今回のようにアースアーマーを使うことはなかったが、Bクラスならばレベル3以上を持っていても不思議ではない。

 そして、土属性レベル2を持つリリーナはアルの助言を受けて土属性のレベル3以上の魔法も勉強していたのだ。


「きゃあっ!」


 そして、アースウォールを使って動き回る戦術を見た時点でリリーナの頭の中にはアースアーマーが使われるだろうという考えが浮かんできた。

 自分が持つ属性を整理し、その中でアースアーマーに対抗できる魔法――ではなく戦術を導き出し、アースアーマーのデメリットとなる重量を利用してぬかるみに沈めたのだ。


「くっ! う、動けない!?」

「ツリースパイラル!」


 そして、アースアーマーとはいえ完全に土で覆ってしまえば動けないし前も見えない。

 わずかな隙間へと蔦を侵入させて拘束し、そして締め上げていく。そして――


「……こ……こう、さん」

「それまで!」


 ラーミアが降参したことで審判から声が上がり、リリーナは魔法を解除する。


「勝者――リリーナ・エルドア!」


 またしてもFクラスの勝利となり二階席からはざわめきが聞こえてくる。


「いやー、完敗よ、かんぱーい! リリーナちゃん、凄く強いわね!」


 しかし、対戦相手であるラーミアが大声でリリーナを褒めたたえながら握手を求めてきたことで少しずつ拍手が起こり、わずかではあるがFクラスの勝利を認める学生が出てきてくれた。


「あの、ありがとうございました」

「うふふ、私は本当のことを言っただけよ。しっかし、ガルボさんの弟さん、えっと……」

「アル様、ですか?」

「そうそう! アルは対戦相手に恵まれなかったよねー。貴族派にしか当たってこなかったから勝っても敵が増える一方だし、それに……」

「それに?」


 途中で言葉を切ったラーミアに問い返すと、何故か満面の笑みでこう言われてしまう。


「リリーナちゃんのファンが増えてるから、もしリリーナちゃんにまで勝っちゃったらまーた敵が増えるだろうなーってね。それじゃあ、まったねー!」


 そんなことを言われてしまい、どう反応したらいいのか分からずただラーミアの背中を見送ることしかできないリリーナなのだった。

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