第197話:トーナメント戦⑦
第一魔道場に入場すると、逆側の控え室からはジーレインが不敵な笑みを浮かべながら歩いてくる。
案の定、二階席からの声はジーレインを応援する声がほとんどであり、アルを応援する声は掻き消されてしまい聞こえない。
罵詈雑言も聞こえてくるがそれらは試合に集中すれば全く聞こえなくなるので気にはならないものの、それらが全て相手の戦意高揚につながるのでそこだけが心配ではある。
一回戦と同じく二年次Aクラスの学生であるジーレインの実力がヴィンスとどの程度異なるのか。
「一回戦と同じようになるとは思うなよ」
「それは、楽しみにしておきます」
正直なところ、一回戦は楽に勝利してしまったと思っていたので骨のある相手と戦いたいと思っていたのも事実。
ジーレインがアルを満足させるだけの実力を見せてくれるのか、そこにも一つの楽しみを見い出していた。
「言ってろ。俺の魔法装具はAランク相当の魔獣を素材にしたものだ。貴様の魔法装具など、破壊してやるさ!」
「それは困りますね。それなら、俺もあなたの魔法装具を破壊できるよう試みてみますよ」
「……貴様! やってみるがいい!」
安い挑発に乗ってくれるものだと思っていたのだが、杖を構えた途端に先ほどまでの怒りはどこへやら、冷静な表情でこちらを見据えてきたので楽しめそうだと心が躍ってしまう。
「それでは、試合――開始!」
先手を取ったのはジーレインだ。
光魔法のフラッシュを放ち第一魔道場全体に強烈な光を点す。
視界を奪い、その隙に魔法を叩き込もうという魂胆なのだが、相手が悪かった。
アルは目を閉じながらもジーレインの魔力を感じ取ると、次に放たれる魔法を推測して迎撃に当たる。
「フレイムランス!」
「ウォーターランス」
お互いの魔法が衝突、中央で爆発が起きると次々に魔法が撃ち出されていく。
さすがは二年次トップの実力者、光魔法を維持しながら数々の魔法を行使している。
一方のアルはジーレインの魔力を感じ取り、そこに含まれる属性特有の波動すらも見定めて相性の良い魔法で相殺していく。
驚きの表情を浮かべたのはジーレインだ。
最初に放ったフレイムランスで勝負は決すると思っていたのだが、次の攻撃も、さらに次の攻撃も相殺されるものだから徐々に苛立ちが募っていく。
「なんだ、もう魔力が底を尽きそうなのか?」
「舐めるなよ、ならば本気でやってやろう!」
「そうしてくれ。でなければ、話にならない」
この言葉には冷静に戦っていたジーレインも苛立ちが表情に出てしまう。
だが、次に驚きの表情を浮かべたのはアルの方だった。
「……へぇ、これがあなたの本気か」
「「「「あぁ、驚きだろう?」」」」
二階席からも歓声とざわめきが聞こえてきた。
それもそうだろう。ジーレインの姿が突然一人から二人、二人から四人に増えたのだから。
「「「「レベル4の光属性魔法――ミラージュ」」」」
指定した場所に光の反射を作り出し、そこに自らの幻影を映し出す魔法。
実物はもちろん一人なのだが、幻影を攻撃するとそこに仕込まれた設置型魔法が発動して攻撃するというのがよくある使い方だ。
「ようは、近づかずに幻影を排除すればいいんだろう?」
「「「「そう簡単な話ではないんだよ」」」」
「そうか。だが、試してみないと納得できない質なんでな!」
アルは四人のジーレインめがけてウッドスパイラルを放ち、その身を蔦で絡み捕る。
(……? おかしいな。四人の内、一人は本物のはずじゃないのか?)
本体、もしくは全てのジーレインが絡め捕られないよう逃げるだろうと思っていたアルだったが、実際には全てのジーレインが絡め捕られてしまった。
さらに言えば設置型魔法も発動することなく、そしてツリースパイラルも全てがまるで本物を捕らえているかのように絡みついている。
ミラージュに違和感を覚えたアルはさらに集中してジーレインの魔力を感じ取ろうとした時だ――
「シューティングスター!」
何もないはずの後方から突然の声が響き渡り、光の矢がアルめがけて放たれた。
狙いは頭、一撃で戦闘不能へと追い込むつもりだ。
「――リフレクション」
確実に頭を捉えた、そう思っていたジーレインはあり得ない現象を目の当たりにする。
放たれたシューティングスターはアルの目の前で軌道を変えると明後日の方向へと飛んで行ってしまう。
「……な、何故、貴様がその魔法を!」
アルが使った魔法は光属性の防御魔法であるリフレクション。
魔法を逸らせたり、タイミングよく発動できればそのまま反射させることもできる魔法だった。
「光属性を持っているから、ただそれだけです」
一撃必殺の奇襲を防がれてしまい、次の戦術を考えていなかったジーレインは我を忘れて移動しながらシューティングスターを放っていく。
しかし、別の魔法を放つことなく移動したのは愚策だった。
アルの戦いを見た観衆があまりの驚きに黙り込んでいる。静かな舞台の上を何の対処もすることなく走ったものだから足音がはっきりと聞こえていたのだ。
「リフレクション」
先ほどは逸らせるだけの魔法だったが、今回はジーレインの居場所を見えないながらも完全に把握している。魔法が放たれるタイミングも完全に先読みしていたことから、シューティングスターをそのままジーレインへと反射させた。
「ぐがあっ!」
「おっ! ようやく姿を現したみたいだな」
左肩を貫かれた激痛のせいでミラージュを維持することができなくなり、ジーレインの姿が完全に視認できるようになる。
一歩ずつ近づいていくアルに対して、ジーレインは一歩ずつ後退していく。しかし、舞台の端まで追いつめられると必死の形相で懇願を口にした。
「な、なあ、頼む! も、もう、アルには手を出さない! いんちきだなんてなかった、俺からそう二年次の奴らに伝えるから、許してくれ!」
「それは、降参ということでいいんですか?」
アルは今の発言の意図を確認する為に審判へ視線を向ける。
直後、ジーレインは下卑た笑みを浮かべて三連射のシューティングスターを放った。
「終わりだ、アル・ノワ――」
「リフレクション」
完璧なタイミングで発動されたリフレクションは、全てのシューティングスターをジーレインに反射させてその身を貫いた。
そのうちの一射が頭部を狙ったものであり、寸分違わずジーレインの眉間を貫いている。
結果として、致命傷に至る攻撃を受けた激痛のせいで気を失ったジーレインの敗退が決定。
「勝者――アル・ノワール!」
第一魔道場は一部の学生を除き、多くの学生が目の前の光景にただただ無言を貫くことしかできないのだった。
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