第196話:トーナメント戦⑥

 二階席へと移動してリリーナたちと合流したアルたちは周囲からの悪意ある視線に晒されることになったが、舞台上と同様に本人が特に気にしていないこともありいつも通りに過ごしている。

 二回戦以降の説明がこの後に行われるとあって移動したくてもできないというのが本音だが、移動したからといって視線から逃れることができるとも思えないのでどこでも構わなかった。

 そんなことを考えていると、舞台上にアミルダが姿を現すと第一魔道場全体に声が聞こえるよう音を拡張させる便利な魔法を使って説明を始めた。


「まずは一回戦を勝ち抜いた学生諸君、おめでとう。そして負けた学生も良い経験になったことだろう。さて、二回戦についてだが、トーナメント表が完成したのでこちらに表示したいと思う」


 表示するという言葉に学生たちがざわめき始めるのとほぼ同時、アミルダの頭上の何もない空間に巨大なトーナメント表が表示されたのだ。

 これにはみんなを驚かせてきたアルも他の学生たち同様に驚きつつも自分の名前を探していた。


「さて、まずは二回戦の第一試合だが――アル・ノワール対ジーレイン・フットザール!」


 しかし、アルが見つけるよりも先にアミルダから名前が口にされ、さらに対戦相手の名前が呼ばれると第一魔道場から大歓声があがった。


「……この歓声は、ジーレインに対するものだよなぁ」

「そうだろうな。フットザール家にまで目を付けられたのか?」

「不可抗力ですよ。あれはヴォレスト先生が仕組んでましたからね」


 ガルボが呆れた感じで問い掛けると、事実をそのまま口にしたアルだったが信じてもらえたのかは怪しいものでジト目を向けられている。


「本当ですよ? 呼び出された先にジーレインがいて、難癖をつけられてそのまま出て行ったんですから」

「お前は言い返さなかったのか?」

「いや、あのフットザール家ですよ? いくら俺でもむやみやたらに噛み付こうとは思いませんよ」


 ザーラッド家も上級貴族だったが、同じ上級貴族でも天と地の差があるほどに影響力を持つ貴族家なのだからアルの判断は間違いではないだろう。

 そのことにも気づいていたガルボは全面的に納得はしていないものの仕方なくといった感じで頷いていた。


「第一試合は今から一時間後に行う。そして、ここで勝利した者が自ずと学園代表の八名に入ることが可能となるので、参加者は気合を入れて挑むように」


 最後にそう口にしたアミルダは目ざとく二階席にいるアルを見つけるとニヤリと笑いながら舞台を下りていく。


「……あの人、わざわざ舞台を用意しやがったな」

「そうですね。ですが、アル様なら絶対に勝てると信じていますよ」

「善処するよ。それよりも、他のみんなはどうだったんですか?」


 アルが確認のために口を開くとリリーナが第二試合、そして四年次で参加していたフレイヤが第七試合だった。


「お互いに勝ち進めばリリーナとは次の試合、フレイヤさんとは決勝で当たるんですね」

「でも、私の相手は四年次の方なんですよね」

「リリーナなら大丈夫よ! 私も控え室までついていくから、リラックスして頑張りなさい!」


 今から硬くなっているリリーナにクルルがいつもと変わらない笑顔で背中を叩いている。


「えぇーっ! 弟君とは決勝でしか戦えないのかー」

「なんだフレイヤ、アルと戦いたいのか?」

「また無謀なことを考えていたんですね」

「えっ、えっ? みんな、私の応援はしてくれないのー!」


 フレイヤはアルと戦いたかったようで逆の山になったことを悔しがっている。

 そして、今の発言からは決勝にも勝ち進めるという自信が見て取れるのでアルとしても戦いたい気持ちが大きくなっていた。

 しかし、フレイヤの山にはアルが警戒している人物の名前も含まれていた。


(シエラ・クロケットは第五試合か。一応、警戒して見ておく必要はあるだろうな)


 アルに対して殺気を放っていた人物。

 そして、唯一全力で相手ができるかもしれないと期待を寄せている人物でもある。

 フレイヤとも戦ってみたいが、顔見知りであるフレイヤなら模擬戦という形でも戦うことは可能だろう。

 ならば、アルとしては決勝で当たるのであればシエラと試合をしたいという気持ちがわずかに勝っていた。


「応援してますよ、フレイヤさん」

「さっすが弟君だねー! よーし、お姉さん頑張っちゃうんだからね!」

「お前がお姉さんって玉かよ」

「ガルボの仰る通りですね」

「……ねえ、パーティメンバーが応援してくれないってどういうことなのかしらね?」

「……いや、それを俺に言われても」


 一人で行動するとまたトラブルに巻き込まれかねないアルは時間ギリギリまでみんなと共に過ごし、開始十分前になると念の為にガルボとフォルトを伴って控え室へと向かう。


「アル。ジーレインは一年次の頃から優秀だったと先生方が言っていた。お前のことだから隙を見せることはないと思うが、気をつけるんだぞ」

「応援していますよ、アル君」

「ありがとうございます、ガルボ兄上、フォルトさん。いってきます」


 二人に簡単な挨拶を済ませたアルは、集中力を高めたままジーレインとの試合へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る