第185話:学園行事
その日の晩ご飯には珍しく全員が集まっていた。
久しぶりにキリアンと顔を会わせたアルはとても嬉しく、食事の間も学園の話やノースエルリンドでの出来事を楽しそうに語っていた。
だが、食事も終わりに近づくとガルボからアルに声が掛けられた。
「……魔法競技会、ですか?」
「やっぱり聞いていなかったか。いやまあ、学園での状況は俺も知っていたから聞いてみたんだが、聞いといてよかったよ」
ホッと胸を撫で下ろしたガルボだったが、すぐに表情を引き締めて魔法競技会について説明する。
「魔法競技会ってのは、名前の通り魔法技術を競う大会だ」
「それは学園内で競い合う大会なんですか?」
「いや、他学園と競うことになる」
「それなら俺は関係ないですね」
学園内で競うのであればFクラスのアルも少なからず参加する義務があると考えていたが、これが他学園と競うとなれば話は別だ。
「どうせAクラスとか、悪くてCクラスまでしか参加できないんじゃないですか?」
「普通はそうだな……普通は」
「……なんだか意味深な言い方ですが、何かあったんですか?」
何やら歯切れが悪いガルボにアルが疑問を抱くと、その答えを口にしたのはキリアンだった。
「実は、僕が今日ここにいるのもそのことが理由なんだ」
「キリアン兄上も何か知っているんですか?」
「あぁ、まあ、僕のせいってのもあるんだけど……」
こちらも歯切れが悪くますます困惑してしまうアル。
「……その、アルがFクラスながら僕の記録を塗り替えたことを職場の同僚に自慢したら、魔法競技会に出てくるんだろうって勝手に思い込んじゃってね」
「だったらすぐにでも訂正したらいいのでは? Fクラスの学生が学園を代表するような真似は許されないと説明したらすぐに納得してくれるでしょう」
「いや、普通はそうなんだけどね。その同僚というのが……」
「同僚というのが?」
「…………王族なんだ」
一瞬だがキリアンがなんと言ったのか理解することができずに周囲へ視線を送るアル。
ガルボとアンナは口を開けたまま固まっており、ラミアンは口を手で隠して驚いている様子だ。最後にレオンだが、こちらは片手で顔を覆い嘆息している。
そして再びキリアンに視線を戻すと、アルはことの重大さを確認するために聞き返した。
「……今、なんと仰いましたか?」
「……その同僚が、カーザリアの第一王子なんだよ」
「…………はああああああああぁぁっ!?」
大声をあげたアルはこの異常事態を理解した。
「ちょっと待ってください、キリアン兄上! その、今の流れだと俺が魔法競技会に参加しないのは不味くないですか?」
「……はっきり言って、不味いかな。親しい仲であっても、王族に嘘をついたことになるからな」
「……もし出られなかったら、どうなるんですか?」
ゴクリと唾を飲み込みながらその答えを待っていると、キリアンは大量の汗を流しながらはっきりと口にした。
「……不敬罪で、最悪の場合は死罪とか?」
「最悪にもほどがありますよ! 父上、どうにかならないのですか!?」
最後の頼みは父親だとアルはレオンへ向き直ったのだが、さすがのレオンも王族には逆らえないようだ。
「アル、しっかりと勉学に励んで魔法競技会の座を射止めるんだぞ」
「……お、俺の味方はいないんですかねえ!?」
頭を抱えだしたアルだったが、ここで女神のようにかわいい少女が屈託のない笑みを向けてきた。
「アルお兄様、私はお兄様を応援しています! だって、私の自慢のお兄様なんだもの!」
アンナの笑顔と期待に応えられない、とは口に出せるわけもなく、アルは表情をこわばらせながらも最終的には力なく頷いた。
「……が、頑張ります」
「本当にすまない、アル」
「いや、いいんですよ、キリアン兄上。俺も変に目立っているのは理解していましたから」
「だが、先ほどの話だとさらに周囲が騒がしくなるんじゃないのか?」
キリアンの言葉にアルは曖昧に笑うことしかできなかった。
そこへずっと黙っていたラミアンが口を開く。
「……アミルダちゃんに協力を取り付けられないかしら」
「どうだろうな。あいつも学園長という立場にあるから、学園行事で一人の学生を贔屓するわけにはいかんだろう」
「そうだけど、アルの実力ならFクラスでもAクラスの生徒とも渡り合えるはずでしょう?」
「いや、アルの方が強いだろうな」
「……えっと、二人とも親バカですか?」
呆れたようにそう口にしたアルだったが、両親と同じ思いを抱いている者は大勢いた。
「僕の記録を塗り替えたんだから当然だよ!」
「上級生にも負けないだろうな」
「アルお兄様は最強です!」
「……えぇぇ~」
ということで、レオンとラミアンからアルが学園代表の座を勝ち取るための方法がないか確認を取ることになったのだった。
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