第186話:大事な報告
翌日、アルは帽子を被りながら学園へと向かった。
何とか教室まで辿り着くと、そこからは一息つくことができる。
というのも、周囲を仲の良い面々で固めてくれるからだ。
「おはようございます、アル様」
「おはよう、リリーナ、クルル」
「アルも大変だよなー」
「エルクは他人事みたいに言ってくれるよな」
苦笑を浮かべながらエルクたちにも挨拶をする。
こうなるとアルに声を掛けたい女子たちは気が引けてしまう。
人が多いというのもそうだが、その中に貴族であるリリーナがいることが大きな理由の一つでもある。
アルと同じ下級貴族ではあるが、平民だけなのか貴族がいるのか、そこが大きく異なってくるのだ。
「あの子たちの中では、アルとリリーナは恋仲ってことになってるんじゃないのかしら?」
「ちょっと、クルルちゃん!」
「それはありだと思う」
「マ、マリーちゃんまで!」
顔を赤くして否定するリリーナだったが、アルは何も言えずに苦笑を浮かべるだけに止める。
「あそこまで否定しなくてもいいんじゃねえか?」
「エルクも茶化さないよ」
「俺の味方はキースだけだな」
こうして気軽に話せて助けてくれる友人が近くにいてくれることがとても頼りになる。
そのことに感謝しながら午前中の授業が始まった。
基本的にはダンジョンに潜ってもいいということになっているが、夏休み明けからは一般の家庭教師では教えていないことが多くなってくるので座学を受ける学生も増えてきている。
それでもダンジョンに潜っているのは広い範囲で教えることができる凄腕の家庭教師を雇っていた貴族だけでパーティを組んでいる学生くらいだ。
「さて、午前の授業はこれで終わりですけど、ここで一つ大事なご報告がございまーす!」
ペリナがそう口にすると教室のいる全学生の視線が集中する。
だが、ご機嫌なペリナから伝えられることが自分たちに有益な内容なのか、アルは疑いの眼差しを向けていた。
「上級生の話を聞いた人もいると思いますが、そろそろ魔法競技会の時期が近づいてきました! 去年まではAクラスを筆頭にレベルの高い学生が選抜されていましたが、今年からは大きく変わります!」
大きく変わると聞いてアルは頭を抱える。
アミルダはレオンたちが話をする前からレベルの低い学生にもチャンスを与えるつもりだった――否、アルにチャンスを与えるつもりだった。
「今日から一週間後、学園代表を決めるトーナメント戦を行います! 参加は強制ではありませんので希望者を募り、その中で上位の学生が代表となります!」
Fクラスの学生が参加するはずがないと思うのが普通のはずだが、学生の視線はペリナから一番後ろの席に座っているアルへと集まる。
「ふふふ、そうそう、アル君は強制参加でよろしくねー!」
「ちょっと! 何で俺だけが強制参加――」
「いや、アルならやってくれるんじゃねえか?」
「っていうか、アルが優勝してもおかしくないだろう」
「そうよ! アル君なら問題ないわ!」
立ち上がったアルが異議を唱えようとしたのだが、その声を遮るように学生たちから声があがる。
助けを求めるためにリリーナたちへ視線を向けたのだが、五人もアルなら問題ないと思っているようで苦笑を浮かべたり肩を竦めたりするだけだった。
「……お、お前らなぁ」
「もちろん! 他の子たちも参加できるからどんどん手を上げてちょうだいね!」
そう言い残してペリナは教室から去っていった。
静寂が残された教室では一人だけ立っているアルに視線が集中し、何も言えなくなったアルは頭を掻きながらドスンと席に着いた。
「……もう逃げられなくないか?」
「……アルの参加は、決定だね」
「……さすがにこの状況では僕も助けられませんね」
「……はぁ」
エルクたちにそう言われたアルは溜息をつきながら天井を見つめる。
「……まあ、これでキリアン兄上の助けになれるのならいいのか?」
前向きに考えなければ溜息が止まらないと思ったアルはそのように考えながら一日を過ごしたのだった。
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