第179話:魔法装具師②
店内へ足を踏み入れると、中は一般的な魔法装具店になっていた。
裏通りにある店にしては綺麗に掃除されており、商品も手入れが行き届いている。
ラミアンとベルが何やら話をしている間にアルは商品を見て回っていたのだが、その値段を見て驚いた。
「ひゃ、100万ゼルド!?」
10万ゼルドがガッシュの一年分の給料だとして、その十倍。
「……はは、魔法装具がなかなか出回らないわけだ」
これだけの値段なら平民は当然ながら、冒険者でも上位の者しか手にすることはできないだろう。
下級貴族が魔法装具を一つしか持っていないというのも頷ける。
「……あれ? でも、俺はオールブラックと今から作る魔法装具とで二つ持つわけだけど……ちょっと待て、いったいいくら使わせて――」
「アルー! こっちに来てちょうだーい!」
そこでラミアンから声を掛けられたのでアルは慌てて駆け寄りお金のことを聞いてみた。
「あの、魔法装具の相場って100万ゼルドくらいなんですか?」
「あぁ、あっちの魔法装具は高価なものだから高いのよ」
高価なものと言われてホッとしたあるだったが、次の言葉に安堵した自分を後悔することになる。
「相場は大体50万ゼルドくらいかしらね。それ以下だと粗悪品が多くてオススメはしないわね」
「ご、50万ゼルド、ですか」
それでも高額だと顔を真っ青にしてラミアンへ視線を向ける。
「す、すみません。ノワール家の財政、ものすごく圧迫してますよね?」
「うふふ、私たちは全然大丈夫なのよ」
「で、でも、50万ゼルドですよ! ものによっては100万ゼルドもするし……そ、そうだ! 少ないですが魔法装具の足しになると思ってノースエルリンドで手に入れた臨時収入が――」
「アルっちー。あれはね、素材から加工まで全てこっちで準備した魔法装具だから高いんだよー」
そこへ補足をしてくれたのはベルだった。
「……そ、そうなん、ですか?」
「とりわけ素材の値段が八割くらいだから、素材持ち込みの魔法装具はそこまでお金を取ってないんだよー」
「素材が、八割?」
「そういうこと。アルの場合はどちらも素材の持ち込みになるから加工代だけだから、お金もそこまで掛かっていないのよ」
説明を聞いてホッとしようとしたアルだったが、また追加で情報があり二度目の後悔はしたくない。
「……ほ、本当ですか?」
故に疑ってみせたのだが、二人とも苦笑を浮かべながら頷いてくれた。
そこでようやく安堵できたアルだったが、ノースエルリンドの冒険者ギルドで手に入れたお金は元々魔法装具の足しにするつもりだったのでラミアンに押し付ける。
「もう、本当にいいのよ? 将来のために貯めていた方がいいと思うけど?」
「いいんです、母上。これが少しでも家のためになるのであれば。それに、俺は冒険者になってから、ちゃんと冒険者として稼いで生活をしていこうと思っているのでこのお金はここで使っておきたいんです」
「うーん……分かったわ。アルがそこまで言うなら、ありがたく使わせてもらうわね」
そうして受け取ったお金は2万ゼルド。
その金額を見たベルは何やら考え込んでいたのだが、何かを思いついたのかこんな提案を口にしてくれた。
「加工代は貰ってたし、この2万ゼルドを使って追加オプションを足してみないかい?」
「……追加オプションですか?」
何のことだか分からないアルはラミアンを見たのだが、そのラミアンは一つ頷くだけだったのでベルに説明を求めた。
「加工のみをお願いする客の中には本当にそれだけをお願いする人がいるんだけど、僕はあまりオススメしていないの」
「それだけってことは魔法装具だけを作ってもらい、他の道具は何も買わないってことですか?」
「そういうこと。そういう人たちに限って、手入れが行き届かずに徐々に効果が薄くなったり、悪い場合だと壊しちゃう人もいるのよ」
高価な魔法装具の手入れを疎かにする者がいることに驚き、壊すと聞いて呆れが顔に出てしまう。
「魔法装具店で手入れ道具とかオプションを付けて手入れを楽にすることもできるんだけど、できるだけ安く抑えたい客は道具を買わないし、オプションも付けてくれないのよ」
「将来的に長く使うなら必要経費だと思うんですけどね」
「正にそうなのよ! いやー、アルっちは分かってるわねー!」
「あれ? でも、オールブラックに関してはそういうことをしてなかったような……」
不安を覚えたアルがそう口にすると、ベルが見せてと言ってきたので恐る恐る手渡した。
「……あー、これは全然大丈夫だよ」
「そ、そうですか?」
「っていうか、全く使ってないんじゃないの?」
そう言われて考えてみると学園ではオールブラックを使っておらず、氷雷山へ向かう時に多少使ったくらいであとは剣術で魔獣を倒していた。
「……そうですね」
「でも、一回の魔法で高威力のものが使われたようだから、こっちにも耐久力強化のオプションを付けてあげた方がいいかもしれないけど……どうする?」
「お願いするわ」
「は、母上!?」
アルが考える暇を与えることなくラミアンがあっさりと注文してしまい、アルは慌てて声をあげた。
だが、有無を言わせないラミアンの笑顔を見たアルは意見することを諦め、そして感謝の言葉を掛けたのだった。
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