第175話:ユージュラッドへの帰還②
「――ザーラッド家は取り潰しになった」
それがレオンから伝えられた結論だった。
アルは屋敷に戻るとすぐにレオンの部屋を訪れていた。
ちょうど仕事を終えて一息ついていたところだったが、アルの帰還と表情からザーラッド家のことを聞いたのだろうと察して伝えられたのだ。
「しかし、上級貴族がいきなり取り潰しというのは……その、他の貴族の争いの元になりませんか?」
「なるだろうな。特に中級貴族が空いた席を狙って殺到するだろう」
「……その、次男のゾランだけを処分することはできなかったんでしょうか?」
アルとしてはザーラッド家が、特に上級貴族が取り潰しになることを望んではいない。
それは貴族間の争いもそうだが、移動中も考えていたノワール家がザーラッド家の報復対象になることを恐れているのだ。
レオンとラミアンの実力は貴族の中でも上位に位置しており、長男キリアンの実力は折り紙付き。ガルボは三人と比べて差はあるものの自衛ができるだけの実力は兼ね備えている。
しかし、魔法学園への入学前であるアンナが狙われてしまうことがアルにとって一番の不安になってしまう。
だが、レオンはザーラッド家の取り潰しは仕方がないことだったと口にした。
「ザーラッド家はやり過ぎたのだ。次男だけではなく、長男も好き放題にやっていて周囲に迷惑を掛けていたし、当主も貴族たちの間では嫌われ者になっていた。地位が高いというだけで孤立していても発言力は高かったんだ」
「そこを潰すのが貴族として優先すべきことだった、ということですか?」
「その通りだ」
「家族が危険に晒されると分かっていてもですか?」
ここでアルはレオンを睨みつけるように視線を鋭くする。
今までレオンに反抗するなどしたことがないアルにとっては初めてのことだったが、可愛い妹が危険に晒される可能性があるのであれば当主で父親であるレオンに反抗するのもやむなしだと覚悟していた。
「……言っておくが、これは俺の一存で決めたことではない。ラミアンはもちろん、キリアンにガルボ、そしてアンナにも伝えて決めたことだ」
「アンナにもですか?」
「あぁ。アンナは言っていたぞ、私は自衛できますと。そして、お前のことを気にしていた」
「……俺のことをですか?」
どうしてアンナが自分のことを気にするのか理解できなかったアルは首を傾げてしまう。
だが、この状況を作り出したのが誰なのかに行きつけばすぐに答えは出ていたはずだ。
「ノワール家とザーラッド家、この構図を作り出したのは仕掛けたのがあちらであれ、アルとゾランだということだ」
「――!」
「アンナは仮に自分が狙われて怪我でもしたら、アルが心を痛めてしまうと気にしていた。だからこそ、自分は大丈夫なのだと強気に言っていたんだ」
「……そう、でした。この状況は、俺のせいなんですよね」
レオンの言葉にアルは自分の立場を思い出した。
アルとゾラン、この二人が争わなければこの状況が生まれることはなかったのだ。
「まあ、お前が気に病むことはない」
だが、そのレオンは軽い感じでアルに笑みを向けながらそう口にする。
「……ですが父上、これは明らかに俺の失態です」
「違うだろう」
「……えっ?」
「ゾランから嫌がらせがあった場合に対立していいかと、お前は私に確認しただろう」
「……は、はい」
「そこで私はこう答えた――叩き潰してやれ、とな」
「……あっ」
「そういうことだ。だからアルが気に病むことはない」
レオンは自身の発言に責任を持てないような男ではない。そのことをアルは良く知っている。
それでも自分が納得できないことに変わりはないのだが、これ以上何を言ったところでレオンが折れることもないということも知っていた。
「でも――」
「気に病むな」
「……俺がゾランと――」
「気に病むな」
「…………しかし――」
「気に病むな!」
「………………はい」
頑固なレオンは自分が責任を持つと言えばそれ以外の答えは受け入れない。
「それにな、アル。久しぶりに息子の顔を見たいのは俺だけではないんだよ」
「まあ、長い夏休みでしたけど十日と少しくらいですよ?」
「気づいていないのか?」
「いったい何に――」
「アールー!」
「どわあっ!」
勢いよく開かれたドアの向こう側からラミアンが飛び込んでくるとそのままアルに抱きついてきたのだ。
その後ろからはアンナとガルボが苦笑しながらゆっくりと部屋の中に入ってくる。
「さあさあ! ノースエルリンドでどのような日々を過ごしたのか聞かせてちょうだい!」
「素材は手に入ったのか、アル?」
「アルお兄様、私も話を聞きたいです!」
「……ここでそのまま話をしても?」
「構わないよ。私も聞きたいからな」
レオンはチグサを呼ぶと部屋にお茶を運ばせた。
そのチグサにも部屋に残るように伝えると、そこからアルの話が始まった。
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