第174話:ユージュラッドへの帰還

 アルたちは二日掛けてユージュラッドへと帰還した。

 その途中には魔獣が群れを成していた森の中を通ったのだがすでに魔獣は掃討されており、調査中だと口にした冒険者と遭遇する。


「魔獣の群れは単純に放置された死骸に群がっているだけだったみたいだな」

「そうか、それならよかった。しかし、誰がどうして魔獣の死骸を大量に放置したのか」

「そこなんだが、実は分かっていることもあるんだ」

「そうなのか?」


 やり取りは全てガバランが行っている。

 アルは馬車の中から耳を澄ませているのだが、その内容はどうにも馬鹿げている内容だったがアルも無関係というわけではなかった。


「なんでも、ユージュラッドの魔法学園に通っている学生が見下していた相手に偉いボコボコにされたらしくてな。その腹いせに魔獣を呼び寄せようと考えたらしい」

「……すまん、何故そこに行きつくのかさっぱり分からないんだが」

「……それを俺に聞くなよ」


 冒険者が言うには、自分の実力を両親に疑われ始めたのがきっかけらしく、魔獣を呼び寄せて自分が追い払えば見直してもらえると考えたのだとか。


「……全く、どこの貴族がそんなことを」

「おっ、貴族だって分かるのか?」

「こんな自分本位で都市を滅ぼそうとするなんて、貴族しかいないだろう」

「確かにな。それも今回関わっているのは上級貴族らしいぞ」

(……上級貴族?)


 アルには心当たりがあった。

 魔法学園でちょっかいを出され模擬戦を行い、その相手をボコボコにしてしまった。さらに言えばその後の報復さえもあっさりと払いのけてしまったのだ。


「どこのバカ貴族なのかも分かっていそうだな」

「そりゃあな。なんでも――ザーラッド家の次男が原因らしいぞ」

(……おいおい、マジかよ)


 ザーラッド家が関わっているということを冒険者が知っているということは、当然ながら学園や他の貴族にも伝わっていることだろう。

 上級貴族の我儘となれば結構な大事でも揉み消せるかもしれないが、一つの都市が滅ぶ可能性もあった今回の件に関して言えば揉み消せる範囲を大きく逸脱してしまうはずだ。

 処分がゾランだけで済めばいいが、最悪の場合はザーラッド家自体が取り潰しに合うかもしれない。


「それじゃあ、俺はもう少しだけ見回ってから戻るわ。そっちも気をつけろよ!」

「あぁ、時間を貰ってしまって悪いな」


 ガバランが情報をくれた冒険者にお礼を告げて別れると、アルの様子がおかしいことに気づいてまさかと声を掛けてきた。


「今の話、まさかアルも関わっているのか?」

「というか、俺しか関わってないとも言える」

「アル様、まさか問題児なんですか?」

「俺は違うよ! 問題児はザーラッド家の次男だからな!」


 そこでアルはゾランとの間に生じた問題について説明をすると、二人からは同情の視線が注がれた。


「まあ、アルは全てにおいて規格外だからな。上級貴族が下級貴族に負けるとも思わないだろうし、目立つアルを倒して自分がさらに目立とうと考えたんだろうな」

「でも、返り討ちに遭ったからって言って魔獣を呼び寄せるなんてあり得ないですよ!」

「それは言えているな。まあどちらにせよ、悪いのはザーラッド家なのだからアルが何かされることはないだろうな」


 とはいえ、今後については分からなくなる。

 ゾランが逆恨みしてさらなる報復を仕掛けてくるかもしれないし、ザーラッド家が取り潰しとなれば家族総出で仕掛けてくることも考えられる。

 それに、そうなればアルだけの問題ではなくなってしまうのだ。


「これは、魔法装具の前に父上と話し合いが必要になりそうだな」


 嘆息するアルに二人は苦笑しながら馬車を走らせた。

 素材が揃っているのにすぐに動き出せないというのはあまりに歯がゆいものだが、ここは仕方がないと納得するしかなかった。


 ユージュラッドに到着したアルは屋敷の前で下ろしてもらう。

 二人は冒険者ギルドへと向かい依頼完了の報告を行うのだ。


「ガバランさん、エルザさん、今回は本当にありがとうございました」

「それはこちらのセリフなのだがな」

「臨時収入もありましたしね!」


 呆れ顔のガバランに満面の笑みを浮かべているエルザ。対照的な二人の表情にアルは何故か安心感を覚えていた。


「また何かあればよろしくお願いしますね」

「アルの依頼なら優先して受けさせてもらうよ」

「私もです! それまでにCランクに上がってみせますよ!」

「楽しみにしてるよ。それじゃあ、また!」


 笑顔で二人と別れたアルは大きく深呼吸をすると、ノワール家の屋敷へと戻っていった。

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