第172話:ノースエルリンドへの帰還②

「……あの、これっていったいいくら入っているんですか?」

「10万ゼルドです」

「「「……10万ゼルド!?」」」


 アルたちは声を揃えて驚き、ガッシュも声には出さなかったが後ろで驚愕の表情を浮かべていた。

 それもそのはずで、10万ゼルドという大金は兵士長であるガッシュの給料一年分に相当する金額だからだ。


「あの、情報だけにこれだけの金額を?」

「いいえ、情報に加えてオークロードを倒したという証明がありましたから、その分も上乗せさせていただきました」

「……さすがはAランク相当の魔獣ってことですか」


 ガバランとエルザは大金を見つめたまま固まっていたのだが、アルの行動にさらに驚いてしまう。


「それじゃあ、ガバランさんとエルザさんで5万ゼルドずつ分けてください」

「「……はあっ!?」」

「ア、アル殿、正気ですか!?」


 今回はさすがのガッシュも口を挟んできた。

 しかし、アルの考えは変わることなく当たり前だと口にする。


「だって、俺は冒険者ではありませんし、冒険者ギルドからの報酬であれば二人が貰うべきですよ」

「お、お前はバカか! もう貴族だからとか関係ない、アル、お前はバカだ!」

「そうですよ! じゅ、10万ゼルドですよ! これだけの大金をホイホイあげるだなんて、バカですよ!」

「二人とも、酷くない?」

「「言われて当然だ!」」


 あまりの迫力にやや引き気味になってしまったアルだが、ガッシュも味方にはなってくれそうもないので大きく溜息をついてしまう。


「だって、俺はまだ学生だからお金の使い道も少ないんだよ。冒険者をやっている二人の方が必要だろうからそのまま貰ってくれた方がありがたいんだよ」

「だからと言って1ゼルドも受け取らないというのはおかしいだろう」

「そうですよ! アル様がいなかったらオークロードを倒すことはできなかったんですからね!」

「私もそう思います。アル殿には受け取る資格が大いにあります」

「……あれ? そういえばガッシュさんにはないんですか?」


 オークロードを倒したということで言えばガッシュも同じパーティとして行動を共にしたのだから報酬があってもいい気がする。

 しかし、兵士長として参加したガッシュに冒険者ギルドからの報酬というのはなかった。


「まあ、私の場合は領主から特別報酬を受け取れることになっているのでお気になさらないでください」

「それって、俺たちと同じくらいの金額ですか?」

「いえ、さすがにそこまでないでしょうな。良くて1万ゼルドほどではないでしょうか」


 兵士はあくまでもその都市を守るのが仕事である。

 今回のオークロード討伐も仕事の延長だと言われれば何も文句は言えないのだ。

 しかし、あれだけの危険を賭してノースエルリンドを守ったのだからアルたちと同等の金額を貰ってもいいのではないかと思えてならない。


「……それじゃあ、ガバランさんとエルザさんが3万ゼルドずつ。俺とガッシュさんが2万ゼルドずつでどうですか?」

「わ、私は結構です! アル殿が4万ゼルドを貰ってください!」

「いえ、それでは俺の気が済みません。それに、さっきも言いましたが俺は学生で、さらに言えば貴族です。家にいる間はお金に困ることもそうそうないですから必要な人の手に渡ってくれた方が助かります」

「で、ですが……」

「それに、俺の目的はすでに達成されているんです。お金よりも価値のある素材を手に入れましたからね」


 そう言いながらアイテムボックスを叩くと、ガッシュは視線をガバランとエルザに向ける。


「こうなったアルは意見を曲げませんよ」

「アル様も受け取ってくれるわけですし、ガッシュさんも受け取ってください」

「お二人まで……しかし、本当によろしいのですか?」

「よろしいんです」


 最後にアルが念を押すと、ガッシュは笑みを浮かべて頷いてくれた。


「ありがとうございます」

「こちらこそですよ」

「話がまとまってくれてよかったです。では、お金はいかがなさいますか?」


 ガバランとエルザは冒険者ギルドの口座に全額預けることとなり、ガッシュはそのまま受け取ることにした。

 アルはというとアイテムボックスがあるのでそのまま突っ込んでいた。


「……アル、さすがに何か袋にでも入れた方が良かったんじゃないか?」

「取り出す時は念じればいいから楽だよ?」

「いや、そういう問題では……まあ、アルだからいいのか」

「アル様ですからね」

「……絶対に貶してるよねえ!?」


 最終的には笑い声に包まれると、アルたちはフレイラとノルンにお礼を言って部屋を後にした。

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