第169話:激戦の後②

 食事を終えると体に力が入るようになり、僅かなら腕も上がるようになってきた。

 ちなみに、アルの食事はエルザが与えておりとても恥ずかしい体験をすることになったのはここだけの話である。


「ガバランさん、ガッシュさん。周囲の状況はどうでしたか?」

「オークジェネラルのせいだろうが、魔獣はほとんどいなかったな」

「魔獣が溢れているなどということもなさそうなので、ダンジョンの入り口が現れたという線はないかと思いますな」

「そうですか、それはよかったです」


 ホッと胸を撫で下ろしたアルだったが、内心では少しだけ残念に思っていた。

 ユージュラッド魔法学園で管理されているダンジョンではなく、新しく現れた人の手が入っていないダンジョンを見てみたいという欲望もまた本物だったからだ。


「……アル様、変なことを考えていませんか?」

「……バレた?」

「やっぱり! ダンジョンの入り口がないのは良いことなんですからね!」

「わ、分かってるよ。ただ、やっぱり気になるなと思っただけですから」


 アルを注意しようと大声をあげているエルザにガバランが一つ咳ばらいをする。

 周囲に魔獣はいないものの、ここは都市の外でありオークロードが現れたイレギュラーな場所でもあるので、慎重に行動するに越したことはない。


「……す、すみません」

「いや、今の話ではエルザの言っていることが正しいからな。アルもあまり不謹慎なことは言うんじゃないぞ。ガッシュさんの心情も考えるんだ」

「あっ……そうでした、すみません」


 もしダンジョンの入り口があったとしたら、最初に被害に遭うのは間違いなくノースエルリンドだ。

 それを入り口がなかったから落ち込むなどと、あってはならない行動だった。


「いやいや、アル殿は自分に正直なだけなのでしょう。それに、私も若い頃は冒険をしてみたいと思っていた人間ですから、気持ちは分かりますよ」

「……ですが、あまりに不謹慎でした」

「そのように反省できるのもアル殿の良いところですな」


 ははは、と笑って許してくれたガッシュにも安堵の息を吐き、アルたちはこれからのことについて話し合うことにした。


「今の感じだと、明日にはある程度動けるようになると思います。そのまま下山をするか、俺が丸一日寝てたので物資はもう一日滞在できる分もあるので調査を続行することもできますね」

「見たと思うが、アルが欲していた氷岩石は洞窟の奥に大量にあるから俺たちは戻っても問題はない」

「だけど、できれば氷雷山の安全もしっかりと確認できればベストですよね」


 アル、ガバラン、エルザと意見を出し合うと、三人の視線はガッシュへと向いた。


「……わ、私ですか?」

「はい。俺たちの目的はすでに達成されています。オークジェネラル……いや、オークロードの討伐も達成できました」

「依頼主であるアルの安全を優先するなら、俺たちはこのまま下山するのが本来はいいんだが」

「ガッシュさんの意見次第ではこのまま調査を続けてもいいと思っているんです」

「……で、ですが、オークロードの討伐までしてくれたのですから、これ以上皆様にご迷惑を掛けるわけには――」

「ガッシュさん」


 自分の意見を口にしようとしないガッシュの言葉を遮りアルが発言する。


「確かに俺たちは下山するのが普通の選択なんでしょう。ですが、それは三人パーティだった時の話です。今はガッシュさんを加えた四人パーティなんですから、全員の意見を聞いたうえで行動を決定したいんです。それも、本心の意見を聞いてね」

「……私も、パーティ?」

「当り前ですよ。アルがいなければと言いましたが、ガッシュさんがいなくても俺たちは死んでいたんですから」

「本当は私が動かなければいけなかったのに、ガッシュさんに頼ってしまって……本当にありがとうございました!」


 三人の言葉を受けてガッシュは少しだけ下を向いていたものの、考えがまとまったのか再び顔を上げた時の表情は凛々しいものになっていた。


「……もしよければ、明日も氷雷山の調査をお願いしたい。ノースエルリンドに住む民の為に!」

「よし、それじゃあ明日まで氷雷山の探索をして、明後日に下山しましょう」

「異常があれば即座に連絡だな。アルがいるならエルザも動けるだろうし、二手に分かれて行動するぞ」

「分かりました!」


 そして、明日はアルとエルザ、ガッシュとガバランという組み合わせで行動することになり、丸一日寝ていたアルだったがこの日もぐっすりと寝付くことができた。

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