第166話:進化②
──バキンッ!
しかし、オークロードの絶叫に続いて聞こえてきたのはソードゼロが砕ける音だった。
ダメージは確かにあったが致命傷には程遠く、さらにソードゼロを作るための素材が底をついてしまい新たな剣を作ることができなくなっていた。
手元にある武器は斬鉄が一振りのみ。
『ゲ……ゲゲ……ゲブラアアアアアアアアッ!』
「アル殿!」
振り抜かれる金色の大剣がアルを捉えようとした時、駆け出していたガッシュがその盾となりデーモンナイトの大剣を地面に突き立てた。
だが、BランクとAランクでは実力に大きな隔たりが存在する。それはそれぞれが手にしている武器にも影響を及ぼしており、デーモンナイトの大剣はすでにボロボロとなっていた。
──バキンッ!
故に、デーモンナイトの大剣もソードゼロと同じ運命を辿り砕けてしまった。
金色の大剣は勢いそのままに二人へと襲い掛かったのだが、そこへガバランが大量の魔力を注ぎ込んだアースウォールを作り出したことで間一髪、致命傷を避けることはできた。
それでも砕かれたアースウォールの破片が二人を打ち据えて肉体へのダメージは蓄積されてしまう。
『ゲブララララララッ!』
「……ア、アル殿」
「……助かりました、ガッシュさん」
「いえ。しかし、これで本当に、万事休すですな」
体は傷つき、武器を失い、敵はいまだに健在である。
唯一の対抗策は神の像なのだが、現時点ではダンジョンであったような声は聞こえてこない。
(くそっ! なんでこんな時にちゃんとした剣が俺の手元にないんだ! 剣があれば、オークロードとも対等以上に戦えるというのに!)
高笑いするオークロードを目の前にして無い物ねだりをしても意味がなく、アルは現状をどう打開するかを考え始めた。
(俺とガッシュさんはすぐには動けない。ガバランさんは魔法で援護が限界、エルザさんの技術ならある程度やれるだろうけど、オークロードと正面切って切り合えるのか?)
倒すを捨てて逃げるというのが最善の選択なのかもしれない。
だが、ソウルイーターにとどめを刺したとはいえ、ここでオークロードを放置してしまえばさらなる進化が起きてしまう可能性もあるかもしれない。
そう考えると何を賭してもここで仕留める必要があると思えてならない。
「……待てよ」
「……アル殿?」
ガッシュのおかげで十全ではないものの体は動く。そして、魔法では金の鎧を貫けないと判断したことで魔力だけは十分に残っている。
「……試す価値は、あるか」
膝に手を当てながらなんとか立ち上がったアルは、ガバランとエルザに指示を飛ばした。
「一分! 時間を稼いでください!」
オークロードもアルが何かを企んでいることに気づいただろう。すでに勝ちは明らかなのだが、それを手中に収めるためにゆっくりと歩き出す。
そこに割って入ったのがエルザだった。
「行かせません!」
『ゲブラ? ……ゲブラアアアアッ!』
目の前に現れた虫けらに高笑いが止まらないオークロードだったが、時間の無駄だと金の大剣を即座に振り抜く。
ガッシュのように先読みはできないエルザだが、目で見たものへの反応速度は卓越したものを持っていた。
「なんのこれしき!」
『ゲブラッ!』
何度も響き渡る金属音に苛立ちを募らせたのはオークロードである。
先ほどのガッシュ同様に受けるばかりで反撃をしてこないことへの苛立ちが力押しへと変わり、エルザは徐々に後退していく。
「──アースドーム!」
『ゲバッ!?』
後退のタイミングを見計らい、ガバランがレベル4の土属性魔法を発動した。
雪を突き破りせり上がってきた土がオークロードを包み込むようにしてドームの形を作り上げる。そして、中の空洞に土を流し込むことで圧死させる魔法なのだが──
──ドゴオオオオンッ!
分厚く作っていたはずの土壁がオークロードの斬撃によって切り裂かれてしまった。
『ゲバララララアアアアァァッ!』
ガバラン最大の魔法があっさりと破られてしまい倒すには至らないものの、アルが指定した一分はとうの昔に過ぎていた。
「……全く、アルには毎度驚かされるな」
「……アル様、凄すぎます」
「……まさか、こんなことができるのですか!」
ガバランが、エルザが、ガッシュが驚きの声を漏らしながらアルを見つめている。
異常な魔力を感じ取ったオークロードもその視線をアルへと向けた。
『……ゲブラア?』
「……さて、これで対等な戦いができそうだな」
アルが握りしめていたもの、それは──真っ赤に燃え上がる炎の剣だった。
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