第165話:進化
オークジェネラルだったであろうものは、その姿を進化させている。
あまりにも巨大だった肉体はさらに肥大し、顏も醜悪となり体内から吐き出される息は不思議と赤黒く見える。
手にしていた棍棒が砕けると中からは巨大な大剣が姿を現し、大盾や鎧はその光沢を金色に変えていた。
「……嘘でしょ?」
「……これは、逃げることも叶わんか」
「……こいつは――オークロード!」
オーク種の最上位に位置しているオークロード。その実力はAランク相当を有しており、オークジェネラルを遥かに凌駕している。
どうして気づくのが遅れてしまったのか。どうして一気に倒してしまわなかったのか。今となっては後悔しか出てこないが、アルは目の前の状況を好転させるべく魔法を放つ。
「ファイアボルト!」
オールブラックによって威力が底上げされたファイアボルトはオークジェネラルの青の鎧を貫いている。
多少なりダメージがあるだろうと考えていたのだが――
『ゲブラアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
「嘘だろ!?」
オークロードの大咆哮は衝撃波となりファイアボルトを声だけで打ち消してしまった。
目の前の光景に誰もが息を呑み、倒すことを諦めかけた。
しかし、アルだけは構うことなく斬鉄を抜いて果敢に挑み掛かった。
「アル!」
「みんなは下山して助けを呼んでください!」
「ダメですよ! そんなの間に合いません!」
「皆様こそお逃げください! ここは兵士である私が――」
『ゲブラアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
「「「――!」」」
再びの大咆哮。
ガバランも、エルザも、歴戦の兵士であるガッシュですら、その大咆哮に怯み動きを止めてしまう。
しかし、アルだけは恐怖を肌で感じながらも受け流しながらオークロードの間合いに侵入していく。
「ふっ!」
『ゲブラッ!』
斬鉄と大剣がぶつかり合い、風切り音だけが聞こえていた山頂に金属音が響き渡る。
それも一秒の間に数合もの音が聞こえたことでガバランたちは驚愕を覚えていた。
「ちいっ! やはり間合いが足りないか!」
この場にデーモンナイトの捻れた角を使った剣がないことを悔やみながら、ないものねだりをしても仕方がないと斬鉄を使ってどのように勝利するかを考える。
ソードゼロを使うことも考えたが、デーモンナイトの大剣でも砕けてしまったのだからオークロードの大剣では一合も持たないだろう。
ファイアボルト以上の魔力融合を使うことも考えたが、魔力を大量に消費することもあり博打的な戦い方はできない。
金の鎧のつなぎ目を狙い肉体への攻撃も考えたが、現状オークロードの攻撃をかいくぐり接近すること自体が難しくなっていた。
(せめてあと一人、耐えるだけでも加わってくれれば!)
エルザは無理だろう。元々の気弱さもあり大咆哮を浴びて体が完全に竦んでいる。
ガバランはどうだろうかと考えたが、ある以上の魔法が使えない以上は金の鎧に攻撃を弾かれて終わってしまう。
唯一可能性がある人物と言えば――
「…………ア、アル殿! 大剣をお貸しくだされ!」
「大剣……あれか!」
一度距離を取ったアルはアイテムボックスの中からデーモンナイトの大剣を取り出すとガッシュめがけて投げる。
デーモンナイトの大剣はガッシュの目の前に突き立ち、竦んだ体に鞭を打ちながら歩き出すと、大剣を両手で握りしめた。
「やれますか、ガッシュさん!」
「無論です!」
「耐えるだけで構いません、お願いします!」
「ノースエルリンド兵士長ガッシュ・スターリン――いざ参る!」
自らの体に風魔法を纏わせたガッシュは先ほど以上の速度で駆け出すと不意の一撃をオークロードに見舞っていく。
金の鎧に防がれたものの、鎧の表面には傷が一筋残りオークロードの中でガッシュは二番目に警戒すべき相手だと認識される。
そして、アルとガッシュでは間合いの中にいるのはガッシュのみ。となれば当然ながら攻撃はガッシュへと向いてしまう。
『ゲブラアアアアッ!』
「防御に徹すれば、これくらい、捌き切ってみせる!」
声を張り上げて自らを鼓舞するガッシュ。重く鋭い攻撃に何とか耐えているのは、それこそ歴戦の兵士だからだろう。
おそらく剣術の技術だけを見ればエルザの方がわずかながら上かもしれない。しかし、相手の攻撃を先読みして受ける、動きを見てからこちらも動く、という実戦に即した戦い方に関して言えばガッシュの方が一枚も二枚も上手だった。
だが、それも長くは持たないだろう。あくまでも受けの体勢であり、攻めることはできないのだから。
「――アースウェーブ!」
そこへ放たれたガバランの魔法はオークロードの足元を狙って放たれた。
異変を感じ取ったオークロードは攻撃を中断して大きく飛び退く。オークジェネラルだった時の記憶がアースウェーブへの対処を自然と促したのだ。
ただし、これがアルの狙いでもあった。
気配を消して動いていたアルはオークロードが飛び退くだろう場所へと移動しており、一撃必殺を狙って待ち構えていた。
「マリノワーナ流剣術――
右手に斬鉄、左手にソードゼロを握りしめたアルはゆらりと体を揺らしたかと思えば目にも止まらぬ速さで剣舞を舞い始めた。
まるで風が流れるようによどみない動きで舞を披露し、刀身は空中で動きの取れないオークロードの金の鎧のつなぎ目へと吸い込まれていく。
肉を斬り裂き、鮮血が舞う。
猛吹雪が続く中、氷雷山の山頂にはオークロードの絶叫が響き渡った。
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