第162話:氷雷山⑥
魔獣を殲滅しながらの登頂ということで滞在日数を大幅に余裕を持っていたのだが、予想以上に道程は順調だったこともあり二日目には八合目まで到着していた。
八合目まで来ると山頂にいるだろうオークジェネラルから放たれている威圧感が肌で感じられるようになっており、全員の口数が減ってきている。
「オークジェネラルも雪山で動き辛くなっている可能性があります。ですから、まずはエルザとガッシュさんが前衛に立ってやり合ってみてください」
「俺が後方から魔法で攻撃を仕掛ける。アルはその間にオークジェネラルを観察して攻略法を見つけて欲しい」
「それはいいが、一気に攻め立てた方がいいんじゃないか?」
「いや、勝てる確証がないフルアタックは一番危険だ。倒しきれなかった時が全滅の時になるからな」
アルの提案をガバランがあっさりと否定すると、そのまま話を進めていく。
「昨日は温存してもらった魔力だが、今日は使わせてしまっている。魔力の方は大丈夫か?」
「全然問題ないよ。……というか、俺が戦えたのも中腹に出てきた異常な群れの時だけだったし」
中腹で遭遇した魔獣の群れ以降、散発的な遭遇はあったものの同様の群れが姿を見せることは一度もなかった。
おそらくすでに逃げてしまったのだろうとガバランは結論付けていたが、それはそれでアルは残念がっていた。
「もっと、戦いたかったなぁ」
「アルはオークジェネラルを倒せると分かった時、存分に戦ってくれたらいいさ」
「まあ、私とエルザ殿で倒せたらそれに越したことはありませんがな」
「が、頑張ります!」
「か、肩の力を抜こうね、エルザさん」
緊張で言葉も詰まっていたエルザにアルが苦笑しながら声を掛ける。
「……さて、それじゃあこのまま山頂まで向かうが、今のところオークジェネラルが現れた理由と思われるものは見当たらないな」
山頂を目指しながらもアルたちはオークジェネラルが現れた理由について調査していた。
だが、それらしきものを見つけることはできず、そしてダンジョンの入り口らしきものも見つけられていない。
ガッシュはいつから現れたのかも分からないから雪の下に隠れてしまっているのだろうと言っていたが、それでも何もないというのは違和感を覚える。
(……ノースエルリンド側ではなく、その逆側に何かあるってことか? それとも山頂にダンジョンが?)
アルは思考をオークジェネラル出現に絞っていたのだが、前を歩く二人から手信号が送られたことで一度目の前の状況に集中する。
だが、アルの気配察知の範囲に魔獣の存在は確認取れていない。いったい何があったのかと疑問が浮かんできたのだが、その答えはすぐに目の前へ現れた。
「……これは、見たことのない魔獣ですね」
「こいつがアイスロックバードですよ、アル殿」
氷雷山の本当の主であるアイスロックバード、その亡骸がアルの足元に転がっている。
首を握り潰されて骨まで砕けているその姿は、見ていて痛々しく感じてしまう。
青と白の羽を持つアイスロックバードが羽ばたいている姿はとても美しいだろうに、それをここまで醜く殺してしまうのかとアルは不思議と嫌悪感すら抱いていた。
「見てください、ガッシュさん! あちらにもアイスロックバードの死骸が!」
「それもこちらは喰われていますね……まさか、複数のアイスロックバードが殺されているのか!」
「不味いですね。これこそ、本当に氷雷山の生態系が壊れかねない」
ガバランの懸念を受けて、アルたちはアイスロックバードの亡骸をアイテムボックスに入れると急いで山頂を目指した。
山頂ともなると中腹、そして先ほど通り過ぎた八合目をも凌ぐ猛吹雪がアルたちに襲い掛かってきた。
視界も悪く、魔光石の光がなければあっという間にはぐれていただろう。
そんな中でも気配察知を常に続けていたアルだからこそ、いち早く魔獣の接近に気づくことができた。
「――! 二人とも、避けてください!」
アルの怒号にも似た声を聞いたエルザとガッシュは左右に飛び退き奇襲に近い一撃を回避することができた。
魔獣が放った棍棒の一撃は雪を吹き飛ばして埋まっていた土肌を露出させると共に抉り取っている。
それだけ強烈な一撃を放った魔獣とは何なのか、それはこの場にいる者なら姿を見ずとも答えることができるはずだ。
「現れたな――オークジェネラル!」
「だが、これは……異常な大きさだぞ!」
ガバランからは驚愕の声が聞こえてくる。
通常、オークジェネラルの体長は三メートルほどで銀色の鎧を身に纏っている。
しかし目の前に現れたオークジェネラルは軽く五メートルは超えており、身に付けている鎧も銀色ではなく青みを帯びていた。
『ゲババババババババッ!』
右手に棍棒、左手に大盾を持ったオークジェネラルが咆哮をあげると、真っ先に狙ったのはエルザだった。
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