第161話:氷雷山⑤

 ――氷雷山二日目。

 アルたちは早朝から行動を開始しており、現在は中腹に差し掛かっている。

 だが、中腹からは魔獣の数も増え始めて昨日殲滅したアイスウルフなどかわいく見える数が襲い掛かってきた。

 連携を取ったとしても三人だけで倒しきることはできずアルも参戦する。


「ようやく出番が来たぞ!」

「おい、アル!」


 ガバランの静止を聞くことなくアルは前線へと飛び出した。

 エルザとガッシュも追い越して最前線へと達したアルは、嬉々として斬鉄を振り抜いていく。

 一匹……三匹……七匹……一五匹……途中からは数えることすら面倒になってきたアルは魔法を駆使しながらもアイテムボックスからソードゼロを取り出すと斬鉄よりも長い刃長を活かしてさらに攻勢を強めていく。

 三人でも取り逃がすだろうと思っていた魔獣の群れだったが、アルはたった一人で全ての魔獣を殲滅してしまった。


「はっはあっ! ……あぁー、大満足だ!」


 満面の笑みを浮かべながら振り返ったアルだったが、三人の表情は完全に呆れ顔だった。


「……まあ、アルだからな」

「……アル様、やり過ぎです」

「……さすがは規格外」


 そう言われたアルは周囲に目を向けた。

 アイスウルフが二〇匹以上、群れを成すことも少ないアイスゴーレムやスノーホーンですら一〇匹以上の数を数えることができる。

 これだけの数を一人で倒したとなれば、規格外と言われても仕方がないだろう。


「……さーて、山頂を目指しましょうか!」

「「「見て見ぬふり!?」」」

「あはは、冗談ですよ。とりあえずアイテムボックスに放り込みますから、そしたら出発しましょう」


 三人の嘆息を聞かないふりしながら魔獣を回収したアルは、再び隊列を組んで出発した。

 だが、ガッシュは顎に手を当てて考え事をしているようだった。


「どうしたんですか?」

「いや、アイスウルフの数が異常だったものですから。それにアイスゴーレムやスノーホーンまで群れを成して現れたというのもおかしいのです」

「おかしい群れ、ですか」


 ガッシュが口にするおかしい群れについて、アルは心当たりがあった。

 それはユージュラッド魔法学園のダンジョン内で起きたイレギュラーによって引き起こされた現象だ。

 参考になるかはさておき、アルはダンジョンで起きたイレギュラーについてガッシュに伝えることにした。


「……突然現れた生態系を崩すほどに強力な魔獣ですか」

「はい。ダンジョンではデーモンナイトでしたが、氷雷山ではその役割をオークジェネラルが担っている可能性も考えられるかと」

「その可能性はありますな。そして、オークジェネラルから逃げるために他の魔獣が下りてきて、先ほどの群れを成したということですか」

「それともう一つ。これはガバランさんの推測になるんですが――」


 そして、そのままダンジョンの入り口が生まれた可能性についても説明した。

 ガッシュにとってはこちらの方が深刻なようで、もしそうだとしたらオークジェネラル討伐どころの騒ぎではないと口にする。


「オークジェネラルがダンジョンから溢れたのだとしたら、これからもっと多くの魔獣が溢れ出す可能性もあります。国への報告義務も出てきますし、これ以上魔獣が溢れないように浅い階層の魔獣を殲滅する必要も出てくるでしょうな」

「だが、それを俺たちがやるべきではないってことですよね」

「そうですね。私たちが優先すべきは情報を持ち帰ることになりますから」


 ダンジョンの入り口を見つけたが生きて帰れず情報が伝わらなかったでは全く意味がない。情報は持ち帰ってこそ意味を成すのだ。


「そうですよね……はぁ、そうですよねぇ」

「ど、どうしたのですか?」

「アルはダンジョンに潜ってみたいと思っているんですよ」

「いくらアル様でもダメだと言い聞かせていますからご安心を!」

「……二人とも、酷いよ」


 ガバランとエルザの言葉にアルは肩を落としてしまう。

 その様子を見てガッシュは笑ってしまったが、今回は二人の言っていることが正しいのだと付け足した。


「いくらアル殿が規格外の実力を持っていたとしても、何の準備もなくダンジョンへ潜るのは感心いたしません。それに、冒険者ならいざ知らず、アル殿はノワール家の子息でございますからな。何かがあってしまえば、ご家族が悲しみますよ」

「……そうですね。すみませんでした」

「いえいえ、私は当然のことを助言したまでです」


 素直に謝ったアルを見てガバランとエルザはガッシュに視線を向ける。

 そんなガッシュは苦笑しながらこう口にした。


「年の功ですよ」

「ん? どういうことですか?」

「アル殿はお気になさるな!」

「……はあ」


 二人の視線の意味をガッシュはちゃんと理解していた――アルを言葉で上手く丸め込んでしまった、という感嘆の視線だったのだ。

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