閑話:アミルダ・ヴォレスト
ユージュラッド魔法学園は夏休みである。
それでも教師陣は交代で学園へ顔を出し見回りをしたり、夏休み中にダンジョンへ潜る学生の支援を行っている。
そんな中、アミルダも学園長室に足を運んでおり書類に目を通しては溜息をつきながら仕事をこなしていた。
「はああぁぁぁぁ、面倒臭いなぁ」
自宅でダラダラと過ごしていたかったアミルダとしては仕事とはいえ夏休みに学園に訪れるのは気分としてはよろしくない。
そして、その一端は一番気に掛けている人物がいないことも起因していた。
「まさか、アルが北方へ向かうなんて思ってもいなかったからなぁ」
上級貴族の子弟なら避暑地で贅沢三昧をしながら休むのだろうが、アルは貴族でも下級貴族のノワール家であり、ノワール家の本宅はユージュラッドにある。
きっとアルだけはユージュラッドに残りダンジョン攻略に勤しむだろうと考えていたのだが、その考えが外れてしまった格好だ。
面白くもない書類仕事をこなしていたアミルダだったが、大きな足音を響かせて学園長室に近づいてくる人物がいた。
その人物はノックをすることもなく乱暴に学園長室の扉を開けてしまう。
「……レオン? それにラミアンまで?」
「アミルダ、話がある」
「ちょっと時間を頂いてもいいかしらー?」
二人の様子を瞬時に察したアミルダは冷汗を背中に掻きながら机を指差して作り笑いを浮かべる。
「しょ、書類仕事が溜まっててねー。今は時間がないんだー」
「ならば時間ができるまでここで待たしてもらおう」
「いやー、それはさすがに悪いよー。いつまで掛かるか分からないんだしー」
「大丈夫ですよ、アミルダちゃん。今日の私たちは非番ですからいつまでも、それも日付が変わるような夜中までも待てますからねー」
「……あは、あはは、そうですか」
何をそこまで怒っているのか、アミルダには心当たりがある。彼は冷静になればとても頼りになる冒険者だが、一度苛立つと心を静めるまで時間が掛かってしまう。
アルが北方へ向かうと聞いた時からアミルダの予定は崩れ、それに対して少しばかりいたずらをしてやりたいという気持ちから護衛にねじ込んだのだから。
「……本当にすみませんでした!」
だから、素直に謝ることにした。
いたずら心があったことは否定できず、ならば誠心誠意謝ることでどうにか許してもらおうと考えたのだ。
「……ほほう、どうやら謝るに値することをしているということだな?」
「……うふふ、アミルダちゃんが考えていた内容の何もかもを白状してもらいましょうか? それと、アルにアイテムボックスを渡した経緯とかも教えてもらえるとありがたいわ?」
「……は、はひ」
全てお見通しか、と思いながらもアミルダは自身が考えていた夏休みの予定について口にすると、当然ながらレオンもラミアンも呆れた様子で見つめていた。
「……お前、それでも学園長か?」
「仰る通りです」
「これでアルが帰ってこなかったら、私はあなたを本気で殺しに掛かりますからね?」
「そ、その点はご安心を! ガバランは私の弟子で、本当に出来の良い冒険者だから!」
「「……弟子?」」
そこからはアミルダの必死の弁解が始まった。特にガバランがどういった冒険者なのかが中心の弁解だ。
Cランクの冒険者、魔法の腕はアミルダのお墨付きであり、対人との交渉もお手の物……お手の物。
「その態度で私たちの怒りを買っているのだが?」
「あ、あれは私のせいなのよ!」
「……あなた、自分の弟子の評判まで落としたいのかしら?」
「ほ、本当にすみませええええんっ!」
そこで初めてガバランがどういった状態にあったのかを理解した二人は怒りを通り越して同情していた。アミルダのような魔法師の弟子にならなければもっと上にいけたのではないかとすら考えてしまう。
「「……不憫過ぎる」」
「ちょっと、二人とも酷くないですか!?」
声を大にして否定しようとしたのだが全く聞く気を持たない二人にアミルダはすぐに諦めてしまった。
だが、必死の弁解が功を奏したのか二人はガバランが優秀な冒険者であり、今回はアミルダのせいで普段の対応ができなかったのだと理解することができた。
「全く、面倒を掛けさせるな」
「本当にねぇ」
「……全く持ってその通りでございます」
こうして三人の誤解は解けたのだった。
だが、北方の都市であるノースエルリンドで起きている問題にアルたちが巻き込まれていることなど、この時は知る由もなかった。
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