第156話:晩ご飯

 食堂にはエルザとも合流して向かったのだが、どうやら人気の宿屋だったようでとても込み合っている。

 全ての席が埋まっているようだったので受付に立っているライラに声を掛けると、この時間はどうしても込み合うのだと教えてくれた。


「宿の利用者もいるんだけど、食堂だけを利用するお客様もいるものだから」

「ということは、とても美味しい食堂ということですね」

「うふふ、私たちの宿屋の名物なの」


 そう言われるとどうしても食べたくなるのだが、この状況では時間が掛かるだろう。仕方なく外に出て食べようかと話していたのだが、そこへライラから声が掛けられた。


「でしたら、お部屋にお持ちしましょうか?」

「いいんですか?」

「えぇ。食堂だけの利用客もいますから、宿を利用している方にだけお部屋での食事も提供しているんです」

「だったらお願いします! 場所は私たちの部屋で。エルザも食事だけはこっちに来てもらっていいかな。明日の話もしたいから」

「大丈夫です」


 ということで、アルたちはライラに注文を取ってもらい部屋で待つことにした。

 アルたちの部屋はガバランの荷物もアイテムボックスに入れているのでエルザがいたとしても広々と使うことができる。

 椅子だけをエルザの部屋から持ってきてもらい、料理が運ばれてくるまでは明日の話をすることにした。

 その中にはガバランが推測したダンジョンについての話も含まれており、エルザは緊張した面持ちで話を聞いていたのだが冒険者ギルドで見せた気弱な部分は顔を出すことなくしっかりと頷いている。


「……エルザさん、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。私も心を決めましたから」


 むしろアルの方が心配になってしまい声を掛けていたのだが、それでもエルザははっきりと大丈夫だと口にする。

 そこでドアがノックされたので話を中断して食事を堪能することにした。


 アルが注文したのはクリームシチュー、ガバランは季節の野菜炒め、エルザは氷狼肉の香草焼き。

 一番ボリュームがある氷狼肉の香草焼きを注文したのがエルザだと知ったアルとガバランは口を開けたまま固まっていたが、よくよく考えると野営でも一番食べていたのはエルザだったと思い返し納得することにした。

 それぞれが注文した料理を口にすると、その美味しさに自然と笑みを浮かべていた。


「このクリームシチュー、味に深みがありますよ! お肉もとろける程に煮込まれてます!」

「いや、こっちの季節の野菜炒めも素材の味がしっかりと出ていて素晴らしい!」

「むふふー、お肉、おいひいれふー!」

「「……あぁ、そうですか」」


 一人だけ単に肉を楽しんでいると分かり苦笑を浮かべたアルとガバランだったが、それぞれの料理がこれだけ美味しいのだから氷狼肉の香草焼きも本当に美味しいのだろうと思いそのまま食事に集中していく。

 食べ終わると食器はエルザが食堂まで運んでくれたので、戻ってきてから話の続きを始める。


「改めて確認するが、俺たちの一番の目的はオークジェネラルの討伐と氷岩石の確保、これは絶対に達成させる。そして、可能であれば何処から現れたのかを探るということだ」

「もしダンジョンの入り口が見つかれば即座に引き返して冒険者ギルドへ報告ですよね?」

「その通りだ。何もないことを願うばかりだがな」

「そうですね」


 ガバランとエルザのやり取りを黙ったまま聞いていたアルだったが、ここで口を挟んでいく。


「もしダンジョンが見つかったら、ちょっとだけでも中を見てみるのは――」

「「絶対にダメ!」」

「……あー、そうですか、すみません」


 何を言っているんだとガバランは呆れ顔を浮かべ、エルザは本気で怒っているのか顔を真っ赤にして前のめりになっている。


「アル様! あなたは何を言っているんですか! こういうのは冒険者や国の騎士団に任せるべきなんですよ!」

「その通りだ。俺たちはあくまで巻き込まれているだけなんだからな」

「……はい」


 アルとしては学園のダンジョン以外のダンジョンをこの目で見てみたいという思いがあったのだが、二人にこれだけ否定されてしまえば何も言えない。自分の我儘で二人を危険に晒すわけにはいかないのだ。


「しかし、そうなると道具を揃え直した方がいいですか?」

「いや、それは必要ないだろう。あくまでも俺たちが滞在できる時間で確認できれば最高というだけで、無理をする必要はない。それに、俺に思いつけた推測なんだから冒険者ギルドでも動いてくれているはずだ」

「だといいんですが……オークジェネラルが何処から来たのか分からなければ、最後に冒険者ギルドに話を持っていくのもありかもしれませんね」


 最後のエルザの発言に二人も頷くと、明日に備えて早く休もうと話し合いを終えてエルザは部屋へと戻っていき、アルとガバランはそのままベッドへ横になると目を閉じる。

 危険な状況へ挑もうとしていることに変わりはないのだが、アルの気持ちは場違いに高揚しているのだった。

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