第155話:ダンジョンの出現?

 首を傾げているアルを見たガバランは険しい表情を崩すことなく説明してくれた。


「ダンジョンについては分からないことが多いということは知っているか?」

「知っています。魔獣の出現だったり、どのようにして生まれているのかが分からないんですよね?」

「あぁ。今回はその中でもどのようにして生まれているのかに焦点が当てられる。諸説あるが、その中に理由は分からないが唐突に生まれ落ちるというのがある」

「……突拍子もない説ですね」

「まあな。だが、意外にもこの説が正しいと考える研究者は少なくない」


 理由が分からないのに研究者が正しいと唱えていいのか疑問に思うところだが、それだけダンジョンというものは分からないことが多過ぎるのだとか。


「細かな話は省くが、魔獣が地上に蔓延っているのも一説ではダンジョンから魔獣が溢れたからという者もいる」

「その話は聞いたことがあります」

「俺がどうしてダンジョンの入り口が現れたと考えた理由の一つに、普通なら現れるはずがないオークジェネラルが氷雷山に現れたという事実だ。もちろん、最初に言った洞窟の奥に元から生息していたという可能性もあるが、やはり今まで発見されなかったのが不思議でならない」

「……ちょっと待ってください。それだと、すでにダンジョンが魔獣で溢れているということになりませんか? そうなると、オークジェネラル一匹の話ではなくなってくる?」


 ガバランは無言で頷き、大きく息を吐き出した。


「しかし、どれを取っても全て俺の推測に過ぎない。本当にそうなら国が動く案件になってくるだろうしな」

「でも、もし本当にそうなら俺たちはどう動くべきでしょう」

「……オークジェネラル討伐はノースエルリンドのために必須だが、可能であればどこからやって来たかを探るべきだろう。洞窟の奥にいたなら俺の心配が杞憂に終わるだけだが、ダンジョンの入り口が見つかったなら即座に冒険者ギルドへ報告が必要になる。そうなれば王都へもすぐに知らせが行くはずだし、近くにランクの高い冒険者がいれば駆けつけてくれるはずだ」


 そう考えると、今のアルたちにできることは相当に少ない。

 ダンジョン探索は無謀であり、攻略など命を捨てに行くようなものだ。ならば当初の目的であるオークジェネラル討伐に全力を注ぎ、余力があればどこから来たのかを調べるということでいいかもしれない。


「無理は禁物ですね」

「それをアルが言うのか。護衛の立場から言わせてみれば、本当は氷雷山に入山すらしてほしくないんだがな」

「今はもう言わない約束ですよ」

「そんな約束をした覚えはないけどな」


 深刻な話になってしまったが、最終的には自分たちにできることを考えて苦笑を浮かべるまでには気持ちは浮上していた。

 そして話を変える意味もありアルは冒険者ギルドでの質問を再度口にすることにした。


「そうそう、改めて何ですがどうしてガバランさんは冒険者になったんですか?」

「……つまらない理由だ」

「それでも知りたいです」


 ワクワクしているのがすぐに分かるアルの表情にガバランは小さく嘆息すると、簡潔に教えてくれた。


「家が貧乏だった、だから稼げる職業が冒険者しかなかった、ただそれだけだ」

「なら、どうやって魔法を学んだんですか? 師匠はヴォレスト先生ということですが、どうやって知り合ったんですか?」

「……聞き過ぎだろう」

「気になりますから」


 笑顔を浮かべてそう口にするアル。


「……全く、本当に変わった依頼人だな。まあ、魔法は故郷の村に魔法師の方が暮らしていてな、そこで学んでいた。だが、その方は高齢だったこともあり俺が九歳の頃に亡くなったんだ」

「そうだったんですね」

「ただ、その方が俺の魔法の才能を認めてくれたのと、師匠とつながりを持っていたことで亡くなる前に手紙でやり取りをしていたみたいでな、葬儀の時にわざわざ顔を出してくれたんだ」

「あのヴォレスト先生が? なんか意外だな」


 そう口にしながらもアルが見たアミルダは学園長としての一面のみで、魔法師や研究者としての姿を見たわけではない。当然、自分の知らない一面もあるだろうと考えることにした。


「そこからはまあ……地獄だった」

「……えっ?」

「師匠の家に住み込みで学んでいたんだが……あの人は相当なずぼらだから家の片付けが特に大変だった。使ったものは出しっぱなし、自分で置いたものすらどこに置いたか分からなくなる。炊事洗濯も全部俺の仕事だった。一番許せなかったのは、師匠は女性なのに脱いだ服を放り投げていくんだ。考えられるか!?」

「……あー、えっと、あり得ない、かな?」

「そうだろう! それなのにあの人はそれが分からないんだ。あの時は魔法の勉強よりも炊事洗濯に時間を取られて本当に嫌だったんだ……本当に、嫌だった」


 遠くを見るような視線でそう呟いたガバランに同情しつつ、それでも師弟関係を崩していないところを見ると尊敬している部分の方が多いのだろうと感じていた。


「……まあ、そんな感じだ。無駄話が長くなってしまったな」

「いえ、俺にとっては貴重は話でしたよ」


 そこからは仮眠を取り体を休めた。

 目を覚ますとその足で宿屋の食堂へと向かい晩ご飯を取ることにした。

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