第154話:話し合い
何を根拠にと思ったが、その答えはすぐに伝えられた。
「そもそも魔力融合が使えること自体、アルの実力が高いと物語っている」
「でも、持っている属性は全てレベル1ですよ?」
「それでもだ。魔力融合で放たれる魔法は単一属性のレベル2以上の威力を持っていると言われるからな。魔力の消費は激しいが、それを差し引いても強力な戦力になり得る」
「そんなことエミリア先生は一言も言ってなかったけどなぁ」
頭を掻きながら困ったような顔をしているアルだったが、ガバランは困る必要はないと口にする。
「むしろ、今回はありがたい話だ。オークジェネラルを倒すつもりではいたが、どうやって倒すべきかはこれから考える予定だったからな」
「そのための話し合いですからね」
「アルの魔力融合があれば一発の威力で仕留められるかもしれん」
そこからはガバランが知るオークジェネラルの情報が説明された。
オーク種でも上位に入る魔獣であり、大剣と大盾を両手に持って戦う。
攻撃魔法は使えないが、身体強化魔法を使えるので見た目から鈍重だと判断する者も多いが、実際は機敏に動き回り鋭い太刀筋で斬り掛かってくる。
さらに問題となるのが取り巻きの魔獣たちだ。
「群れることが少ないオーク種だが、オークジェネラルなどの上位魔獣となれば下位のオーク種を引き連れている場合がある。ガッシュさんもそこまでは把握できていないようだが、気をつけていた方がいいだろうな」
「オークジェネラルだけでも厄介なのに、それ以外にも魔獣がいるとなれば面倒ですね」
「最悪、オークジェネラル以外の魔獣はエルザとガッシュさんに任せて、アルと俺でオークジェネラルを相手取ることになるかもしれない」
強敵を前にして戦力を分散するのは悪手である。しかし現状はそうせざるを得ない状況であり、これ以上の戦力をかき集めることも難しい。
可能性があるとすればガッシュが兵士を同行させることなのだが、そちらも難しいとガバランは考えていた。
「依頼を受ける時にガッシュさんと話をしたんだが、本人はDランクからCランクの冒険者相当の実力ではないかと言っていた。そうなると、ガッシュさん以下の兵士が同行したとしても足手まといにしかならないだろうな」
「そうですか……冒険者はどうですか? どなたか協力してくれれば多少は勝率を上げられると思うんですが」
「……厳しいな。ギルドは当然オークジェネラルのことを聞いている。ランクの高い冒険者が訪れた時に内密で依頼をするためなんだが、それに値する冒険者は訪れていないらしい」
「ということは、冒険者もランクD以下しかいないってことですか?」
「そうなる」
今ある戦力でオークジェネラルを倒すしか方法がない。この事実にガバランは溜息をついているが、アルはむしろ吹っ切れていた。
「それなら、先ほど言っていた方法が一番勝率が高そうですね」
「……冒険者でもないアルに頼るのは冒険者として情けない話だが、頼りにしているよ」
「それはこっちのセリフですよ」
笑いながらそう返すと、ガバランもようやく笑みを浮かべてくれた。
ここでアルは気になっていたことを一つ確認することにした。
「……ガバランさん、一つ確認なんだけどさ」
「なんだ?」
「オークジェネラルって、雪山に生息する魔獣なんですか?」
「俺は聞いたことがない。そもそも、雪山にオーク種が生息していること自体がおかしな話なんだ」
「そうなんですか?」
「オーク種は基本的に森の奥とか、洞窟の奥深くを縄張りにしていることが多い魔獣だ。雪山のどこかに洞窟があり、その奥を縄張りにしていたなんてことはあるかもしれないが、ならどうして今まで誰も気づかなかったんだって話にもなってくる」
「……どこからか急に現れたってことですか?」
「どこからかって、どこから……いや、待てよ?」
アルの質問から何かに気づいたのか、ガバランは突然黙り込み考え込んでしまう。
邪魔をしてはいけないと思い黙ってその様子を見つめていると、顔を上げたガバラン表情は深刻なものになっていた。
「……どうしたんですか?」
「……これは俺の推測だ。当たっているとは限らないし、むしろ当たっていないことの方が可能性としてははるかに高い。それでも聞くか?」
「少ない可能性であってもゼロでなければ聞かせてください」
まるで自分に推測だと言い聞かせているかのような声音にアルも緊張してしまう。
ガバランは一度唾を飲み込み喉の渇きをわずかに潤すと、ゆっくりと口を開いた。
「氷雷山に――ダンジョンの入り口が現れたかもしれない」
その可能性がどの程度の脅威になるのか、アルは分からなかった。
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