第151話:準備
査定金額を準備すると言ってノルンと別れたアルたちは冒険者ギルドの待合室の椅子に腰掛けてガバランから話を聞いていた。
「オークジェネラル討伐依頼は問題なく受けられたよ」
「今さらなんですけど、Bランク相当の魔獣討伐なのにそのまま受けられたんですか?」
冒険者ギルドとしても冒険者の無謀な依頼受注は避けたいはずなので何かしら確認が入ると思っていたのだが、そうではないのだろうか。
「今回は兵士長のガッシュさんがいてくれたからな。話がすんなり通ってくれたよ」
「そうだったんですね、ありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらですよ」
依頼の話はこれで終わりとなり、氷雷山を登頂するために必要な道具の話へと移っていく。
「まずは防寒対策です。今着ている洋服だとノースエルリンドでは問題ないでしょうが、氷雷山へ挑むには足りておりません」
「まずは洋服ですね。ガッシュさん、リーズレット商会のお店が何処にあるかご存じですか?」
「もちろんです。素材買い取りの金額を受け取ったらご案内しましょう」
「助かります」
リーズレット商会の名前が出ると、そこで必要なものは揃えられるとガッシュが教えてくれた。
その中でもアルの興味を引いたのは吹雪の中でも周囲を照らすことができる魔光灯という道具だ。
ダンジョンでしか採掘できない特殊な鉱石で太陽の光に当てると一定時間は自然発光するという代物である。
「吹雪の中で松明を点すわけにもいきませんからね。大きさによって発光する時間も異なりますから、どれくらいで登頂するつもりかにもよって購入する魔光灯の大きさも変わってきます」
「普通だとどれくらいの期間で登頂し下山するものなんですか?」
「そうですねぇ……熟練者で丸一日、多少経験がある者で二日と言ったところでしょうか」
「そうですか。だったら、私たちの場合は余裕をもって五日くらいは見ていた方がいいかもしれませんね」
慣れない山歩き、さらにオークジェネラルの討伐も控えているのだ。ギリギリの予定は依頼失敗だけではなく仲間を命の危険に晒す可能性も高くなる。
幸いアルがアイテムボックスを持っているので物資は余裕をもって持って行けるのだから、滞在期間に関しても余裕を持つのは当然のことと言える。
「……これは早速リーズレット商会へお世話になりますね」
「商人との付き合いは冒険者にとって大事だからな。アルにとっても嬉しい誤算になると思うよ」
「そうですね」
ガバランがそう締めるのと同時にノルンから声が掛かったので窓口へと移動した。
「お待たせいたしました、こちらが今回の査定額になります」
袋の中には硬貨がどっさりと入っている。
「……こんなに、ですか?」
アルが驚くのも無理はない。袋の中にはレオンから貰ったお金の三倍以上の金額が入っていたからだ。
「あれだけの数の魔獣ですからね。それに中にはCランク魔獣も混ざっていましたから」
「……Cランク?」
困惑の声をあげたアルはガバランとエルザへ振り返るが、二人とも首を傾げている。
「ノルンさん、ちなみにCランクの魔獣とはどういった姿の魔獣ですか?」
「確かですねぇ……あぁ、ありました、トレントジャイアントです。大木の姿を真似た魔獣でして、サイズ感も大きく結構な老木だったと思いますよ」
しばらく考えていたアルは、リコとサリアを助け出そうと魔獣の群れの中を駆け抜けた時のことを思い出していた。そして――
「……あぁ、確かにそんな感じの奴がいたなぁ」
「いたなぁって、アルなぁ」
ガバランが呆れたように声を漏らしていることから、トレントジャイアントが面倒な魔獣だということが推測できたが、まさにその通りだった。
「周囲の木に擬態するのがトレントだが、トレントジャイアントはさらに巨大な体躯を有している。森の主と呼ばれることも多い魔獣なんだよ」
「アル様、いつの間にトレントジャイアントを討伐していたんですか?」
「あー、魔獣の群れの中を駆け抜けた時、すれ違いざまに」
「「……すれ違いざま?」」
ガバランとエルザからあり得ないという風な呟きが漏れ聞こえてくる。ガッシュは声には出していないものの驚愕の表情を浮かべていた。
「あの、失礼ですが、アル様は冒険者として活動中ですか?」
「いえ、ユージュラッド魔法学園に通っているただの学生ですよ」
「……ただの学生がトレントジャイアントをすれ違いざまに倒せるはずないんだよ」
「実際に倒しちゃいましたしねぇ」
「……だから呆れているんだ」
ここで堪らずといった感じでガバランが大きく溜息をついた。
「ま、まあ、予定よりも多く資金が手に入ったわけですし、準備を充実させて氷雷山へ向かいましょう!」
「……そういうことにしておくか」
「いいんですか?」
「アル殿がそう言っているのだから、いいのではないですか?」
軽い口調で話ながら受付を離れていったアルたちをポカンとした表情で見送ったノルン。
「……何者?」
そんな疑問を抱きながらも受付にやって来た冒険者の対応に追われるのだった。
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