第147話:討伐に向けて
この時点で説得は無理だと悟ったガバランは今後について有益な時間の使い方をするべく思考していく。
その様子にアルは頷き、そしてガッシュへと振り返る。
「というわけで、俺たちがオークジェネラル討伐へ向かいたいと思います」
「……あの、本当によろしいんですか? もし、もしですが、アル殿たちが殺されてしまっても、我々は何もすることができないのです」
「構いませんよ。これは俺が決定して、俺が勝手に向かうわけですから。それにスターリンさんはちゃんと止めようとしてくれたじゃないですか」
ガッシュの懸念を事もなげにそう言い返すアルの表情は変わらず笑顔のまま。
ここまで言われてしまえばガッシュとしては何も言うことはできず、そして自らも覚悟を決めるべきだと心に決めた。
「でしたら、私も同行させていただきたいと思います」
「えっ! ……でも、危険なんですよね?」
「それをアル殿が言いますか?」
苦笑でそう返されてしまいアルは一瞬だけ驚きはしたもののすぐに同じような笑みを浮かべる。
「……確かに」
「オークジェネラルの件もあり、明後日まではこちらに詰めておりますのでお声掛けください。それ以降になるようであれば、別の兵士に伝言をしておきます」
「分かりました。ですが、本当に無理はしないでくださいね?」
「ご安心ください。これでも実力で兵士長に上り詰めたもので、道案内くらいならばできるかと。それと、こちらがノースエルリンドの滞在許可証になります。お時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」
滞在許可証を受け取ったアルはアイテムボックスに入れてガバランとエルザへ振り返る。
まだ考え事をしているガバランを見てエルザに声を掛けようとしたのだが、そのエルザは顔を真っ青にしていた。
「どうしましたか?」
「……あの、私なんかがオークジェネラルの討伐に参加しても、いいのでしょうか?」
DランクのエルザからするとBランク相当のオークジェネラルは格上も良いところで、下手をすれば何もできずに殺されてしまう可能性だってある。
冒険者になった時点で死と隣り合わせの職業だということは理解しているし覚悟もしているが、いざその状況を迎えるとなれば恐怖を感じるのは当然のことだろう。
「……残りますか?」
「えっ?」
「失敗というわけではなく、ノースエルリンドに残って俺たちの帰りを待ってもらうんです」
「でも、それではアル様をお守りできません」
言っていることが矛盾しているとエルザも分かっている。できればアルがオークジェネラルの討伐を諦めてくれれば一番いいと思いながら口にしているのだが、そうならないことは短い時間の付き合いながら理解していた。
「でしたら一緒に行きましょう。大丈夫、俺がエルザさんを守りますよ」
「……あの、私が護衛なんですけど」
「あっ、そうでしたね」
笑いながらそう口にしたアルを見て、エルザは慰められているのだとすぐに分かった。
そして、そんな気遣いを見せてくれたアルのために自分ができることをやるべきだと改めて心に決める。
「……私も、行きます」
「そう言ってくれると思っていました」
「護衛なのだから当然だろう」
「……ガバランさん、いつから話を聞いていたんですか?」
突然会話に混ざってきたガバランにアルが驚いていると、当然のように口にした。
「最初からだ。というか、話を聞いていないと思っていたのか?」
「何か思案中だったようなので」
「それでも耳は話を聞いているよ。必要なものはリーズレット商会から購入しようと思うんだがどうだろうか」
「それはいいですね! 今ならラグロスさんもいますし、これからも利用するならお店に立ち寄っておくのも今後の為になりますしね」
「ですがアル様、お金はどうするつもりですか? ノワール家から提供されているお金では足りない可能性もありますよ?」
今回の氷岩石採取は現地で必要な道具を買い揃える予定だったのでいくらかのお金をレオンから受け取っている。
しかし、オークジェネラルの討伐を考えた装備となれば採掘だけではお金が足りなくなってしまうのだ。
「そこは道中で狩った魔獣の素材を売って用立てようと思っています」
「確かに、あれだけの数だったからな。足りるどころか余るくらいだろう」
「でしたら私も同行しましょう。ガバラン殿とエルザ殿にはノースエルリンドからの依頼としてオークジェネラルの討伐依頼を受けてもらう必要もありますからね」
ガッシュの言葉を受けて、アルは冒険者ギルドの仕組みも教えてもらえるかもしれないと喜んでいたが、エルザがおずおずした様子で口を開く。
「あの、そうなると魔獣の討伐評価は私とガバランさんに付くんですよね? ほとんどアル様とガバランさんが倒しているのに、私にまで評価が付くのは申し訳ないんですが……」
「俺はそれでも構わないと思っている。実力なんて後からついてくるものだしな。まあ、アルがどう思っているかは分からんが」
「俺ですか? 俺も構いませんよ。というか、護衛依頼中に倒した魔獣なんですからエルザさんの評価になるのは嬉しいことじゃないですか」
「まあ、そうなんですが……」
何を心配しているのか分からなかったアルとは異なり、ガバランは嘆息しつつもエルザと向き合い言葉を掛けた。
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