第146話:説得
何故そこまで驚くのかアルは首を傾げていると、ガバランが呆れたような表情で口を開く。
「オークジェネラルはBランク相当の魔獣だ。私がCランク、エルザはDランク。この意味がお分かりですよね」
「もちろん分かっています。でも、何もしないわけにはいかないでしょう?」
「あの、さすがに貴族の方の護衛を危険な目に遭わせるわけにはいきません。時間は掛かるかもしれませんが、Bランク以上の冒険者が訪れるのを待ちたいと思います。冒険者ギルドにも依頼は出しているので、近いうちに来てくれると思いますから」
ガッシュの言葉にガバランとエルザはホッとしたものの、そこでもアルだけが引き下がらない。というか、行く気満々の表情をしている。
「ガバランさんとエルザさんだけで向かわせるつもりはありませんよ」
「というと、冒険者ギルドで同行者を募るのですか? ですが、オークジェネラルを倒せるほどの実力者はおりませんが……」
「いえ、私が同行するんです」
「……はい?」
今回はガッシュだけが呆気に取られており、ガバランとエルザはやっぱりかと言わんばかりの表情でアルにジト目を向けている。
そんな二人からの無言の圧力にも屈することなくアルは笑顔のまま言葉を続けた。
「これでも冒険者を目指してユージュラッド魔法学園で学んでいるんです。道中の森でも魔獣を退けてきましたから大丈夫ですよ」
「いえ、あの、さすがにそれはダメかと」
「そうですか? うーん、それなら……」
腕組みをしながら思案顔を浮かべていたアルはその視線をガバランとエルザへ向ける。
「ちなみになんですが、ソウルイーターはランクで言うとどの程度なりますか?」
「ソ、ソウルイーターですか?」
「……Cランクの最上位魔獣だ」
「でしたら、デーモンナイトはどうですか?」
デーモンナイトの名前が出た途端にガバランのこめかみがピクピクと動いているのが見えた。
「……Bランクだ」
「そうですか。でしたら問題はないかと」
「も、問題ないって、アル様。何を言っているんですか?」
「……念のために聞きたいんだが、アルはソウルイーターやデーモンナイトと戦ったことがあるのか?」
ほぼ確信を持った質問にアルは今日一番の笑みを浮かべて答えた。
「ありますよ。なんなら、倒してもいます」
「なあっ! デ、デーモンナイトはオークジェネラルよりも実力で言えば上だと言われているのですよ!」
「それにソウルイーターと戦ったということは周囲に多くの魔獣がいた可能性も高い。そんな魔獣と戦ったというのは、にわかに信じられないんだがな」
驚愕の声をあげたガッシュとは対照的にガバランは冷静に真偽を確かめようとする。
言葉だけでは信じてもらえないことは承知していたアルはアイテムボックスからアミルダに渡した以外のデーモンナイトの素材を一部取り出した。
「これでも信じられませんか?」
「これは……大剣?」
取り出したのは業物の大剣を見てエルザとガッシュは首を傾げている。
アルが扱うにはあまりにも大き過ぎる、身長と同じくらいに長く、そして胴と同じくらいに太い大剣を見てガバランだけはゴクリと唾を飲み込んだ。
「まさか、デーモンナイトが使っていた大剣か!」
「はい。僕では扱えなくて、アイテムボックスの肥やしになっています。成長したら扱えるようになることを願ってますけどね」
騎士団長を務めていたアルベルトの頃と同じくらいに成長してくれれば楽に扱えるだろうが、正直なところ諦めていもいる。
もし同じように成長していたなら12歳でもう少し大きくなっていたはずなのだ。
「……分かった、信じよう。アルはソウルイーターだけではなく、デーモンナイトも倒せるだけの実力を秘めていると」
「だったら――」
「だがしかし! それとこれとは話が違う!」
アルが両手を叩こうとしたところでガバランが目を見開いて否定を口にする。
「俺たちはアルの護衛であり、危険な目に遭わせるつもりは毛頭ない! 確かに氷雷山に行かなければ氷岩石は手に入らないが、今回は相手と場所が悪すぎる!」
「……場所が悪い?」
どういうことだと首を傾げていると、その理由についてはガッシュが教えてくれた。
「氷雷山はとても標高が高い山です。地上と同じように動けるわけもなく、さらに雪や氷のせいで足場も悪い。そのような場所でいつも通りに戦えるわけがないのです」
「その通りだ。森の中でアルの実力の一端は見させてもらったが、それでも危険であることには変わりないんだ」
「アル様、今回は諦めてください。依頼人にこのようなことを言うのは間違っているかもしれませんが、安全を確保するのも私たちの仕事なんですよ」
全員から止められればさすがのアルも諦めるだろうと思っていたのだが――
「でも、誰かが行かないといけませんよね? それに俺の夏休みも限りがありますし、どうせ登頂するならついでに解決してもいいと思いませんか?」
あっけらかんと言い放つその姿を見て、全員が嘆息することになった。
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