第145話:ノースエルリンド
その後もラグロスの馬車と行動を共にし、魔獣への対応は両方の護衛が交互で行うことになった。
素材に関しては討伐した護衛が所有権を持ち、いらない部位はもちろんその場で処分する。
すでに森での出来事も情報を共有しており、帰りはラグロスたちが先になるようなので注意するように伝えていた。
そして──アルたちはノースエルリンドに到着した。
※※※※
ユージュラッドよりも北にあり肌を撫でる風がとても冷たく感じる。
この時点でアルは後悔していた。というのも、素材を手に入れることに意識がいきすぎて寒さ対策を怠っていたのだ。
こうなることをレオンは予測していたのだが、将来冒険者を目指すならば経験も必要だろうと黙っていた。
「よろしければ、冬服をご用立ていたしましょうか?」
「……お、お願いします」
アルがガタガタ震えている様子を見てラグロスがそう口にすると何度も大きく頷いていた。
苦笑しながら商品の中からあるのサイズに合った洋服を選ぶと少しだけ割引までしてくれたことに何度もお礼を口にする。
「ふふふ、それはこちらのセリフですよ」
「えっ?」
「商人にとって情報は武器ですからね。特に大量の荷物がある場合はより慎重に動くべきなのです。森での一件を教えていただけたのは大変ありがたいですから」
笑顔でそう告げると検問の順番が来たようでその場で別れた。
しばらく待たされた後にアルたちの順番となり、ガバランが来訪の理由について説明を始める。すると──
「氷雷山にですか!?」
検問を担当していた兵士がとても驚いたように叫んでおり、直後には壁際まで移動させられると詰所の中へ行ってしまった。
「ガバランさん、何かあったんですか?」
「分かりません。ですが、ただ事ではなさそうですね。氷雷山で何かあったのかもしれません」
入山規制などされては目的の氷岩石を手に入れることができなくなってしまう。それだけは避けたいと思いながら待っていると、詰所から別の兵士が姿を現した。
「お待たせしてしまいすみません。私は南門の兵士長でガッシュ・スターリンと申します」
兵士長と聞いて本当に何事なのかとアルたちは顔を見合わせる。
「いえ、それは構わないのですが……何かあったのですか?」
「再度お伺いしたいのですが、皆様は氷雷山へ向かわれるご予定なのですよね?」
「そうですね。私が依頼人のアル・ノワールと言うのですが、氷雷山の山頂でしか採れないという氷岩石を採掘するために向かう予定です」
「ノワール……貴族様でございましたか」
ノワールの名前を聞いたガッシュは明らかに残念そうな表情を浮かべたのだが、気持ちを切り替えたのかすぐに口を開いた。
「……実は、現在氷雷山では本来生息していないはずの魔獣が確認されており、その討伐に向かえる冒険者を探しているのです。なので、その魔獣が討伐されるまでは危険なので入山を規制しているのです」
「そうだったんですね。それで、冒険者は見つかっているんですか?」
アルの質問にガッシュの表情が沈んでしまう。それだけで答えは分かってしまった。
「それが、まだなのです。今回、氷雷山へ向かう方々がいると聞いてお願いできないかと思い私から声を掛けたのですが、貴族の方に危険を強いるわけには参りませんので」
そう口にするガッシュは無理やり笑みを浮かべている。
だからといって何もしなければ目的を果たすことができなくなる可能性もあるのでアルは続けて質問を口にしていく。
「お聞きしたいのですが、ノースエルリンドはカーザリアでも北方にありますよね? 高ランクの冒険者というのは頻繁に訪れるものなのですか?」
「……いえ、ほとんどございません」
「ちなみに、その魔獣の名前とか分かりますか?」
何故そのようなことを聞くのかと困惑しているガッシュだったが、しばらく悩んだ後に一縷の望みにかけたのか詰所の中へ通される。
「今はまだ人里に降りてくることもないという判断から情報規制がされています。なので、誰にも言わないと約束していただけますか?」
「もちろんです。問題を起こすつもりはありませんから」
「……分かりました。氷雷山で確認された魔獣の名前は──オークジェネラル」
「オ、オークジェネラルだと!?」
名前を聞いたガバランは驚きの声をあげ、エルザは口を両手で押さえている。
Cランクのガバランが驚くということは、オークジェネラルがアルたちの手に余るということを意味しており、その時点でガッシュの望みは絶たれたようなものだ。
「……はい。ですから、今は氷雷山への入山は──」
「でしたら、私たちで退治しましょうか」
「「「ええええええぇぇっ!?」」」
ガッシュの言葉を遮る形でアルがそう伝えると、ガッシュだけではなくガバランとエルザからも驚きの声があがった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます