第144話:同行している馬車

 相手方の馬車が張っているテントのところまで移動すると、そこには白髪のお爺さんと護衛らしき人物が三人。

 馬車に載せてある荷物から商人か何かだろうとアルは予想を立てた。


「ご一緒させていただきます」

「ほほほ、儂も若い方々のお話しが聞けると楽しみにしているのですよ」

「ご期待に添えるかは分かりませんが、私の話でよろしければ」


 簡単な挨拶を終えると、アルはアイテムボックスから森の中で確保していた魔獣の肉を取り出した。

 護衛の三人はアイテムボックスにも驚いていたが、大量の肉にも驚きを見せている。そして、ゴクリと喉を鳴らす音まで聞こえてきた。


「これらは途中の森で狩った魔獣なので、せっかくですし皆さんで食べちゃいましょう」

「おぉっ! よろしいのですか!」

「はい。私たちだけでは食べきれませんから」


 声をあげて喜んでいるのは相手方の護衛たちだ。

 ここでは自分よりも年上がいることから俺ではなく私と口にするアル。

 態度の変化にエルザは驚いていたが、ガバランは頷いていたので間違いではないのだろうとホッと安心する。


「自己紹介がまだでしたね。私はノワール家の三男でアル・ノワールと申します」

「ノワール家の、三男? ……では、あなたがそうでしたか」


 何か納得したように頷くお爺さんに首を傾げていると、その理由はすぐに分かった。


「儂は商人をしております、ラグロス・リーズレットと申します」

「リーズレット……あっ! もしや、クルル・リーズレットの?」

「はい。儂はクルルの祖父でございます」


 驚きの出会いにさすがのアルも驚きを隠せなかった。

 いつかはリーズレット商会に足を運ぶつもりでいたのだが、このようなところでクルルの父親の飛び越して祖父に出会うとは思ってもいなかったのだ。


「なんとまあ、世界は狭いといいますか、なんといいますか」

「ふふふ、これは本当に面白いお話しが聞けそうですね」

「お孫さんの学園での話でよろしければ」


 孫の話を嫌う祖父はいないだろうと思い口にしたのだが、ラグロスは手を前に出して制止する。


「いえ、ここはやはりアル様のお話しをお聞かせ願えませんか?」

「……よろしいんですか?」

「えぇ。孫が学園での話をとても楽しそうにしているのですが、その中にはリリーナ様とアル様のお名前がよく出てくるのです。とりわけ、アル様のお名前が出る時がとても楽しそうなのですよ」


 そのように言ってくれるのは嬉しいのだが、アルとしては不安でしかない。


「それって、ダンジョンの話とかですよね? ……その、危険な目には遭わせていないと断言させていただきます!」

「ほほほ、ご安心ください。その程度で心配するほど、儂の肝は小さくありませんぞ」

「……は、はぁ」


 良いのだろうかと思いながらも、アルはクルルの話も交えつつ学園生活を語り始めた。

 どうやらアミルダとも付き合いがあるようで、入学試験の話などは声をあげて笑っている。

 こうしている間にもエルザとラグロスの護衛の一人が一緒に料理を始めており、出来上がると食事をしながらの会話となったがアルが話をするだけではなく、ラグロスからも色々な話を聞くことができたのは僥倖だった。

 特に平民のお金事情についての話はアルが一番聞きたいところであり、商人から話を聞けるのは将来的にもありがたい。


「アル様が冒険者となられましたら、ぜひリーズレット商会をご贔屓にしていただければと思います。ユージュラッドだけではなく、支店は様々な都市にございますから」

「こちらこそよろしくお願いいたします。まさか、このような場所でリーズレット商会の会長と知り合えるとは思いもしませんでした。クルルさんにも感謝しなければなりませんね」

「それこそこちらが感謝するところ。まあ、クルルは少し頑固なところがございまして、自分が納得しないことはとことんやらなければ気が済みません。そのせいでアル様にご迷惑を掛けていないか心配ではありますがね」

「あー、心当たりはありますが、迷惑ではなかったですよ」


 アルが苦笑しながらそう口にすると、ラグロスは何度か瞬きをした後に大きく笑った。


「ほほほ! そうでしたか。いやはや、それを咎めないアル様の器が何とも大きなことか」

「本当に、この方の器は大きいです」


 器の話になった途端、隣で食事をしていたガバランが話に入ってきた。

 何を突然と思いながら話を聞いていると、ノワール家の屋敷前でのやり取りと自らの失敗を口にし始めたのだ。


「なんと、そのようなことがあったのですか」

「はい。ですが、アル様はそんな私を大きな器で許してくれました。本当に、ありがたいことです」

「いや、それは俺がガバランさんを見極めている途中だったからであって、別に器が大きいわけでは――」

「それに、魔法にも卓越しているのですよ?」

「ほうほう。ガバラン殿、その話も詳しく聞かせていただけませんかな?」

「ちょっと、二人とも?」


 そこからはラグロスとガバランがアルを挟んでの褒め合いとなり、張本人であるアルは居心地がとても悪くなっていたのだった。

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