第143話:ガバランの話

 ガバランからの話を総合すると、やはり悪いのはアミルダだということで決着した。

 依頼を受けろといきなり押し掛けてきた挙句に、依頼を受ける予定があると言えばその場で手紙をしたためてギルドマスターに渡せと言ってきたのだとか。

 こうなると断れないことを知っているガバランは嫌々受けたのだが、その依頼内容もノースエルリンドにとりあえず行くとしか聞かされなかった。

 仕方なくそうしようとしたところ、何故かアミルダに連れ回される羽目になりアルのところへ寄ることができず、冒険者ギルドに顔を出すのも当日になってしまったのだ。


「あの人、マジで迷惑な人ですね」

「何か意図があるんだとは思うんだが、俺にはさっぱり分からん」

「でも、結果としてアル様とガバランさんが仲良くなれたのでいいんじゃないですか?」

「「そもそもあの人がいなかったら普通に会話できたの!」」

「……そ、そうですか、あははー」


 事情を説明してもらったエルザだったが見当違いの発言をしてしまい二人からツッコミを入れられてしまう。

 そんな三人は現在、街道を進んでおり他の馬車とも合流している。

 行く先が同じであれば声を掛け合い、一緒に行動することも少なくはないのだとか。

 もちろん相手を選んでの判断にはなるが、今回の馬車はガバランも問題はないだろうということで同行している。


「それにしても、ガバランさんってすごいですね」

「急にどうしたんだ?」

「いえ、冒険者の方々って荒々しい方が多いイメージだったので、こうして他の馬車と交渉とかもできるんだなって思ったんです」

「本当ですよね! 私には無理ですよー」

「エルザはできるようにならないといけないからな?」

「……はい」


 自分の発言が戻ってきてしまい方を落としたエルザに苦笑しながら、ガバランにも冒険者を目指すにはどうしたらいいのかを聞いてみることにした。


「アルの実力があれば問題はないと思う。ただ、エルザが言ったようにドブ浚いだったり犬の散歩みたいなよく分からん依頼を積み重ねないとランクが上がらないから、貴族出身の冒険者が最初にぶち当たる壁を乗り越えられるかどうかが問題だろうな」

「あぁ、その辺は気にしないから大丈夫だと思うよ」

「気にしないって、下級とはいえ貴族だろう、嫌じゃないのか?」

「全く。むしろ、そういう下積みが大事だって思ってるよ」


 アルベルトの幼少期は田舎の村で畑仕事に精を出したこともあるのだ、今さらドブ浚いが嫌だなどと思うはずもなく、むしろ冒険者ギルドから信用を得るには大事なことだと思っている。

 ガバランは少しだけ呆れている様子だったが、同じように思っているので何も言わなかった。


「それにしても、街道沿いはほとんど魔獣を見ませんね」

「定期的に都市から冒険者に依頼が出されて魔獣狩りを行っているからな。さすがに森の中までは手が届かないから今回のようなことが起きるんだが、報告があればそこまで手を伸ばすということだ」

「ですがあの森はユージュラッドからノースエルリンドに向かうためには通らないといけない場所ですよね? そこを放置するのはどうかと思いますけど」


 街道も人通りが多いから整備されたわけで、都市と都市を繋ぐための道は全て整備されて定期的に魔獣狩りが行われてもいいのではないかと考えた。


「アルの言うことは分かるが、人手が足りないんだよ」

「……それは、ユージュラッドが辺境にある都市だからですか?」

「その通りだ。そして、ノースエルリンドは王都からさらに離れて北にある都市だ。ともなれば、王都からの支援は期待できずに現地の冒険者に依頼を出すしかないがその人手がない。だから、都市を守るために近場の魔獣狩りを優先させるってわけだ」


 都市に危険が無ければ放置、というのはどうかと思うが人手が無ければそれも致し方ないのかもしれない。


「難しい問題ですね」

「まあ、それだけじゃないんだけどな」


 他にも理由があるのかと首を傾げていると、その説明はエルザが引き継いでくれた。


「魔獣を狩るとその素材を持ち帰りますよね。アル様のようにアイテムボックスがあれば問題ないのですが、持っている人の方が少ないようなアイテムです。遠出して魔獣を狩っても素材を持ち帰れないとなれば無駄働きみたいなものですからね」

「なるほどな。ダンジョンでも、これを譲り受けるまでは俺も諦めた素材があったわけだし、考えれば分かることでしたね」


 馬車に揺られながら一般常識をもっと知らなければならないと思ったアルは、冒険者の情報だけではなく平民たちの話も聞きたいと思えるようになってきた。


「さて、だいぶ暗くなって来たしそろそろ野営になると思うが……っと、あちらさんも同じ考えみたいだな」


 同行していた馬車の護衛から合図があり、それぞれ同じ場所で野営をすることになった。


「……せっかくですから一緒に食事を摂りませんか? 森で狩った魔獣の素材もありますし食材には事欠きませんから」


 アルの提案を受けてガバランが相手側に話を持って行くと、快く受け入れてもらえたのでそのまま移動することにした。

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