第148話:エルザの不安
「エルザ、あなたは自分の手柄でもないことが自分の評価につながるのを怖がっているんですね?」
「評価を、怖がる?」
何を言っているのかと思ったアルだったが、ガバランの言葉にエルザはゆっくりと頷いた。
「そして、その評価がランクアップにつながらないかを心配していると」
「……はい」
そこまで話を聞いて、ようやくエルザの懸念を理解することができた。
「ランクが上がればそのランクに見合った依頼を受けられるようになる。だけど、実際の実力が見合わないから自分を危険に晒すことになる、ってことですか?」
「そういうことです」
「……すみません。こんな調子では、やっぱりオークジェネラルの討伐には参加しない方が――」
「むしろ好都合じゃないですか?」
「……えっ?」
エルザの言葉を遮るようにしてアルが口にする。
その言葉を聞いたエルザは口を開けたまま固まってしまった。
「森の中にいた魔獣はそこまでランクの高い魔獣ではなかったはずですよね? そんな低ランクの魔獣を倒してランクが上がるなら儲けものですよ。もし実力がランクに見合わないと思っているなら、その実力でオークジェネラルの討伐を成せばいいんです」
「……で、ですから、その実力が見合わないと」
「討伐さえしてしまえば、自信にもつながります。俺が見る限り、エルザさんの剣の腕は高いと思います。筋がいいのに自信を持たないのはもったいないですよ」
ホワイトウルフをランクで判断するとEランク相当の魔獣である。それでも個体によっては筋肉量も異なり、エルザが相手取ったホワイトウルフは五匹いた中でも特別大きな個体だった。
そんなホワイトウルフを一刀のもとに斬り捨ててしまったのだからその実力は本物と言えるだろう。
「……でも、私はDランクですよ?」
「それって魔法が苦手だからDランクなんじゃないですか? 剣術だと一対多では立ち回りが難しいかもしれませんが、一対一ならエルザさんは相当上のランクになれると思うんですけどね。ガバランさんはどう見ますか?」
そこで話をガバランに振ってみると、やや嘆息を含んでいたもののはっきりと言葉にしてくれた。
「アルの言う通りだな。カーザリアは魔法国家だからどうしても魔法の善し悪しがランクに反映されてしまうからDランクだが、他の国でランク査定を行えば俺と同じCランクにもなれるだろう」
「……ほ、本当、ですか?」
「さあな。あくまでも俺の見解だ」
涙目のエルザに見つめられ照れてしまったのか、ガバランはそっぽを向きながらも横目でアルを睨みつけている。
そんな様子に苦笑を浮かべながらアルはエルザを正面から見つめた。
「俺はエルザさんに自信を持ってもらいたい。それにはきっとランクを上げる必要が出てくる。魔法が苦手だからDランクとか、俺だったら反発して他の国に出て行くことも考えちゃうかもしれないな」
「……言い過ぎですよ、アル様」
「そうかな? 俺なんて魔法属性レベル1しか持たない劣等生なんだよ? 最初はユージュラッドを拠点にして冒険者稼業を続けるつもりだけど、ランクが不当に上がらないなら出て行くことも考えなきゃなー」
冗談っぽく言って笑みを浮かべると、エルザもようやく笑ってくれた。その表情を見たアルがさらに笑うと、ようやく気持ちが落ち着いてくれた。
「……先ほどから弱気なことばかり言ってすみませんでした! 私、エルザ・ソルドランはどこまでもアル様についていきます!」
「いや、どこまでもついて来られたら困ります」
「……き、気持ちの表れですよ! 本当にどこまでもついていくわけないじゃないですか!」
「そうなんですか? ちょっとだけ期待したのに」
「もう! アル様の意地悪!」
エルザが元気を取り戻したことでガバランも笑みを浮かべ、ガッシュはホッと胸を撫で下ろしていた。
「スターリンさん、時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした」
「いえ、上手くまとまってくれてよかったです。では、冒険者ギルドへ向かいましょうか」
ガッシュは詰め所の兵士に引き継ぎを済ませると留めてある馬車の方までやって来た。
馬車の停留所まで移動して世話をお願いしたアルたちは、ガッシュの案内でノースエルリンドの冒険者ギルドへと向かう。
アルにとっては初めての冒険者ギルドであることから、胸の高鳴りを止めることができないでいた。
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