第140話:少女たちの話
ガバランとエルザを見つけたアルは手を振ろうとしたのだが、ガバランの表情が明らかに怒っていたのですぐに手を降ろす。そして――案の定、雷が落とされた。
「貴様は! 護衛対象が自ら魔獣の群れに飛び込むとかあり得ないだろう! もう少し自分の立場を弁えろ!」
「ごめん、ごめん。でも、そうしないと彼女たちを助けることができなかったかもしれなかったんだ」
「そうかもしれないが、それは冒険者である俺たちの役目だ! というか、今は護衛依頼中なんだから危険を冒す必要もなかったんだよ!」
あははと笑っているアルに対してガバランは怒り心頭である。
そんな二人を助けられた女性冒険者は何が起きているのかとアルとガバランの間で視線を往復させていた。
「あの、大丈夫ですか?」
そこへ声を掛けたのがエルザだった。
「お、お礼が遅くなってしまい申し訳ない!」
「あの、助けていただいてありがとうござい――いたっ!」
「リコ!」
「……だ、大丈夫よ、サリア。足を捻っただけだから」
慌てて立ち上がろうとした二人だったが、そのうちリコと呼ばれた桃髪の冒険者がよろめいたことで、サリアと呼ばれた赤髪の冒険者が体を支える。
アルとガバランも言い合いを止めて駆け寄ってきた。
「……だいぶ腫れていますね」
「ガバランさんは回復魔法とか使えませんか?」
「俺は攻撃専門だな」
「エルザさんは?」
「私も使えません」
「そうですか……それじゃあ、これを飲んでください」
魔法が使えれば無駄にアイテムを使わずに済むと思っていたのだが、自分を含めて使えなければ仕方ないとアイテムボックスからポーションを取り出した。
ペリナから聞いていた通り、貴族が手元に置いておくポーションよりも安価なものが購入できたので大量に用意していたのだ。
「そんな、これくらいでポーションなんてもったいないです!」
「そうです。それに、助けていただきポーションまで貰っては、恩を返すことができません!」
「困っている時はお互い様ですよ。これを飲まなかったら、ポーションはこのまま置いていきますけどいいですか?」
笑みを浮かべたままそう口にされると、リコとサリアも受け取るしかないと思ったのか渋々受け取り、それをリコが大事そうに飲んでいた。
「……さて、君たちに聞きたいことがあるんだけど、少しだけ時間を貰ってもいいかな?」
「は、はい」
アルの質問にリコが頷き、サリアも表情を引き締めてこちらを見ている。
だが、実際に質問をするのはガバランなのでアルはそちらへ視線を向けた。
「お願いできますか?」
「……分かった。だが、後でもう一度説教をするからな!」
「わ、分かりました」
ガバランはまだアルのことを怒っていたようで表情を厳しくしながら二人の冒険者の前に立つ。
「ここに来るまでの間に殺された魔獣がだいぶ放置されていたが、あれはお前たちの仕業か?」
「……群れに囲まれて、その時に倒した魔獣はそうです」
「ですが、その前から放置された魔獣がいたようで、そのせいで私たちも集まった魔獣に囲まれてしまったんです!」
リコが俯きながら答えており、それを庇うかのようにサリアが声を大にして口にした。
「そうか……分かる範囲でいいんだが、放置されていた魔獣は結構日にちが経っていそうだったか?」
「す、すみません。確認する前に魔獣に囲まれてしまい、そこからは逃げるのに必死で……」
「私も同じです」
そこまで話を聞くとガバランは腕を組み思案を始めた。
しばらくは口を開きそうもないと判断したアルは二人の隣で膝立ちになるとアイテムボックスから水筒を取り出した。
「誰も口を付けていないものだから、二人で飲んでください」
「……何から何まで、申し訳ございません」
「さっきも言ったけど、困った時はお互い様だからね」
「本当に感謝する」
頭を下げた二人を見て、アルはリコに水筒を手渡した。
ゆっくりと水を口に含むと喉が渇いていたことにようやく気づいたのか、ゴクゴクと音を立てて潤していく。
それはサリアも同じだったようで水筒の中身は一気に無くなってしまった。
そして、そのタイミングで思案していたガバランが顔を上げて口を開いた。
「……疲れているところ申し訳ないが、お前たちはユージュラッドに行き冒険者ギルドへ森の状況を知らせて欲しい」
「急にどうしたんですか、ガバランさん?」
エルザは首を傾げているがアルにはその意図が理解できた。
「森の調査が必要ということですね」
「あぁ。魔獣の死体が何者かによって意図的に放置されているとしたら、今後もっと被害が拡大する恐れがある。それを防ぐためにもギルドが動く必要があるだろう」
ガバランの言葉に顔を見合わせたリコとサリアはすぐに立ち上がると大きく頷いた。
ポーションのおかげで捻った足も完治しておりすぐにでも動き出せる状態だ。
「俺たちが通ってきた道なら、今は魔獣もいないだろう。なるべく急ぎでお願いしたいが大丈夫だろうか?」
「だ、大丈夫です!」
「承ります!」
荷物を失っていた二人にはアルが物資をいくつか手渡すとその場で別れた。
二人を見送ったアルたちはそのまま北へと向かう。もちろん、道中で魔獣の死骸があれば処理するつもりだ。
「……さて、御者はエルザにお願いしてもいいか?」
「構いませんけど……わ、私がやります! ぜひともやらせてください!」
何故か手まで上げて馬車の前に歩いていったエルザを不思議に思いながらアルも歩き出す。
「どうしたんですか、エルザさん? ガバランさんも……あー……えっと……」
「貴様、後でもう一度説教だと言っただろう?」
エルザの反応が理解できたアルは顔を引きつらせる。それもそのはず、ガバランの表情が今まで見たことがないくらいに怒っていたのだから。
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