第137話:休憩時のいざこざ

 太陽がてっぺんへやって来た頃、アルたちは休憩を取ることになった。

 エルザが調理に気合いを入れている中で、ガバランは一人で茂みの奥へと消えてしまう。

 呼び止めたアルだったが、食事くらい一人でさせろとのことだったので何も言わないことにした。


「アル様、本当によろしかったのですか?」

「よくはないけど、冒険者にも色々な人がいるってことで俺の勉強がてら自由にさせてみようと思うんだ」

「はぁ」

「あはは、まあ納得されないのは当然だと思うけど、俺も手探りだからさ。それよりもホオジロ鳥の調理、よろしくお願いしますね」

「は、はい! 任せてください!」


 鼻息荒く気合いを入れているエルザに笑みを返すと、アルは周囲の気配を探り始めた。

 この場所から数キロ以内では魔獣の気配が点々とあるものの、特に気にするものではなさそうだ。

 人の気配もあるが複数で行動しているようなので冒険者か、あるいは自分たちと同じように護衛を雇い何処かへと向かう途中の集団だろうと当たりをつける。

 ガバランは茂みの奥だがそこまで離れた場所には行っていない。護衛としての自覚は多少なりあるということか。


「まさか、ここでアルベルト時代に培った技術が役に立つとはな」


 気配を探ることは敵に先手を許さず、そしてこちらから仕掛けることもできるようになる。

 田舎では野生の獣を狩るために父親から嫌というほど鍛えてもらい、国家騎士になってからも日課として鍛え続けていた。

 感覚というものは体に染み付いていたようで、アルに転生してからも十全ではないにしろ気配を探ることが今でも可能となっていた。


「……うん、大丈夫そうだな」


 本来ならこういうことも護衛がやるべきなのだろうが、エルザへの調理はアルから依頼したことなので仕方がない。ガバランに関しては問題行動なのだが、ノースエルリンドまでは我慢が必要だろう。


「アル様ー! できましたよー!」


 そこへ聞こえてきたエルザの声に気持ちを切り替え、アルは良い香りがしている休憩場所へと戻る。

 笑顔で出迎えてくれたエルザの目の前には大きな鍋の中で料理がコトコトと煮立っており、香りがここからしているのだと一目で分かった。


「すみません、調味料がたくさんあったので色々と試してしまいました」

「いいんだよ。無くなってしまったらノースエルリンドで買い足せばいいんだし。それに、外とはいえ美味しい料理は活力の元になるからね」

「はい! ……でも、ガバランさんは?」


 困ったような顔を浮かべたエルザを前にアルは頭を掻いてガバランがいるだろう場所へ目を向ける。

 香りは行っているだろうが、それでも姿を現さないということは食べる意思がないということだろう。


「……ガバランさんは一人で食事をするそうなので二人で食べちゃいましょう」

「……はぁ」

「う~ん、美味しそうだな!」


 そして、ホオジロ鳥の煮つけとスープに舌鼓を打つ。

 肉は聞いていた通りに甘みがあり、なおかつとても柔らかくほろりと身が崩れていく。薄味に味付けされているのは肉本来の味を楽しむためだろう。

 スープは少しだけ辛みが足されているが、甘みと辛みが混ざり合うことで口の中で新しい味が生まれてくることもあり、こちらもとても美味だった。


「うわあっ! とても美味しいですよ、エルザさん!」

「ホオジロ鳥が美味しい素材ですからね」

「いいや、これは料理人の腕がないと出せない味ですよ! 本当にありがとうございます! いやー、エルザさんがいてくれてよかったです!」


 器に取り分けられた分を平らげたアルはおかわりを貰うと、そちらもペロリと食べてしまった。

 それでも三人分として作ったものだからまだ料理は余っている。


「残りはどうしましょうか? 日持ちするものでもないですし、もったいないですけど処分するしか……」

「俺のアイテムボックスに入れておきましょう。そうしたら、夜ご飯が少しは楽になりますよ」

「あっ! そ、そうでしたね。アイテムボックスって珍しいものですから存在を忘れてしまいます」


 鍋に蓋をすると、そのままアイテムボックスに収納して軽く伸びをする。


「そういえば、ノースエルリンドまでは何日くらい掛かるんですか?」

「何もなければ三日程で到着すると思います」

「その何か、というのは魔獣の襲撃とかですか?」

「それもありますが、盗賊など人が襲撃してくることも考えられます」

「盗賊ですか……」


 都市の外の危険は魔獣だけと思い込んでいたアルは考えを改める。

 アルベルト時代にも王族や貴族が移動する際の護衛任務に就いていたこともあったが、盗賊の襲撃は日常茶飯事だったことを思い出したのだ。


「もし盗賊が現れたとなれば、エルザさんとガバランさんの二人で対処へできますか?」

「できる、できない、ではないんです。やるんですよ」

「それが冒険者だ。気遣いなど無用だな」


 食事を終えたのか、茂みの奥からガバランがゆっくりと歩いてきた。


「ホオジロ鳥の煮つけとスープが余っていますが、食べますか?」

「いらん。さっさと出発してノースエルリンドへ向かうぞ」

「わ、分かりました!」


 ガバランの指示に従いエルザが出発の準備を終えると、すぐに北へ向けて出発した。

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