第136話:エルザとの会話②
ダンジョンと野生の魔獣では動きが変わるとなれば、ダンジョンでの常識が通じなくなる可能性も高い。ダンジョンに慣れすぎるのも危険ではないかと考えたのだ。
「アル様のご懸念はもっともだと思います。これは聞いた話なのですが、学園を卒業して冒険者になった方々が最初に躓くのが、野生の魔獣への対応なんだそうですよ」
「やはり、そうなんですね」
「はい。なので、アル様もダンジョンで遭遇したことのある魔獣と戦う時には注意した方がいいと思います」
「分かりました、気をつけたいと思います」
この話の後も冒険者についての助言をエルザから受けることになった。特に冒険者ランクの話はアルが全く知らない内容だったのでありがたく感じている。
冒険者ランクは七段階に設定されており、最高ランクがSランクでユージュラッドを拠点にしている冒険者が一人だけいるようだが都市から都市を飛び回っているのだとか。
そこからAランク、Bランク、Cランク、Dランク、Eランク、そして最低ランクがFランクになる。
新人冒険者は当然ながらFランクからになるのだが、冒険者ギルドに実力を認められれば飛び級で上のランクから始めることも可能だ。
「ただし、飛び級は本当に一握りの方しか認められないと聞いています。それこそ、全国のSランク冒険者の方々とか、Aランクの一部の方くらいらしいですよ」
「それは、すごい方々ばかりなんですね」
飛び級ができれば最低でもAランク相当の実力を秘めていると認められたようなものだが、さすがにそれは厳しいだろうと心の中で苦笑を浮かべる。
そこまで話をして、アルはガバランが寝たふりではなく本当に寝入ったことを確認するとずっと聞きたかったことを口にした。
「エルザさんは魔法が苦手と仰っていましたが、腰に差している剣をメインに戦うんですか?」
「あっ……えっと、はい……」
剣、という単語が出た途端にエルザの表情は曇ってしまう。先ほどまでは笑顔で受け答えしてくれていたのにどうしたのかと首を傾げるアルだったが、その理由はすぐに判明した。
「どうしたんですか?」
「その、剣を使う冒険者はあまり重宝されないと言いますか、時代遅れだと笑われてしまうといいますか……」
「えっ? でも、僕の友人で平民の子もいますけど、剣術は普通だと聞いたことがありますよ?」
エルクたちの話もそうだが、チグサからもそのように聞いているアルとしてはエルザの反応は完全に予想外だった。
「おそらく、その子はユージュラッドの状況しか知らないのだと思います。カーザリア全体で見れば、魔法国家であることも相まって剣術は過去の産物になっていると言わざるを得ないと思います」
「でも、いないわけではないんですよね?」
「えっと、そうですね。いないわけでは、ないです」
アルの態度に今度はエルザが首を傾げる番だった。
魔法学園に通っており、さらに貴族出身のアルが剣に興味を持つこと自体おかしな話だと思っているのだ。
「先ほども言いましたが、俺はレベル1しか持っていないので他の可能性も思案しているんですよ。そこで、剣術にも興味を持っているんです」
「それは、珍しいですね」
「そうですか?」
「はい。いくら冒険者を目指しているからと言って、剣術に興味を示すなんてとても珍しいことだと思います」
「まあ、そう思うのも人それぞれですからね。でも、この話はガバランさんには黙っていてくださいね。またうるさく言われそうなので」
最後の発言だけはおどけた感じで言ってみると、最初はきょとんとしていたもののすぐに笑みを浮かべてくれた。
「そうそう、エルザさんって料理はできますか?」
「えっと、一通りはできると思います」
「でしたら、ホオジロ鳥の調理はお願いしてもいいですか? 狩ったとはいえ、俺は料理が苦手なもので」
頬を掻きながらそう口にすると、エルザは大きく頷いて見せた。
「もちろんです! あっ、でも調味料とかは持ってないので本当に簡素なものになると思いますけどいいですか?」
「ふっふっふーん、野営するとは聞いていたので調味料も持ってきているんですよ!」
アルはそう言いながらアイテムボックスの中から基本的な調味料を取り出してエルザに見せると、当のエルザは呆気にとられたようにそれらを見つめている。
どうしたのかと聞いてみると、その理由は明らかだった。
「冒険者が調味料を持つことなんて、そうそうないものですから」
「あっ! ……そうか、普通なら荷物になっちゃいますもんね」
アイテムボックスが出回っているならいざ知らず、これはとても高価なものでほとんどの冒険者は持っていない。それこそSランクやAランクの冒険者が持っているかどうかというところだろう。
「それじゃあ、エルザさんたちは野営がある時の食事はどうしているんですか?」
「基本的にはかさばらずに長持ちする保存食で済ませます。堅焼きパンなんかがほとんどですけど」
そう言ってエルザが自分の堅焼きパンを取り出してくれたので、許可を貰い食べさせてもらった――しかし。
「……かったあっ! これ、どうやって食べるんですか?」
「そのままだったり、お湯やスープに浸して柔らかくしてからとかですね」
アルベルト時代では大軍として移動することが多く食料も大量に運んでいたので保存食で済ませることはあまりなかった。
「うふふ、これが冒険者になるために必要な洗礼の一つなんですよ。でも、アル様はアイテムボックスを持っているから関係ないかもしれませんけどね」
笑いながらそう言ってくれたエルザに、アルは苦笑を返すことしかできなかった。
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