第135話:エルザとの会話

 ホオジロ鳥を狩ったアルは道すがら回収するとアイテムボックスに入れて再び出発する。

 そこからは馬車の中ではなく日差しは強いのだがエルザの隣で談笑を交えながら進むことにした。


「冒険者というのは大変な仕事なんですか?」


 そして、将来的には冒険者になるつもりでいるアルはエルザに色々と質問をすることにした。


「そうですねぇ……冒険者なりたての時はやはり大変でした。依頼もどぶ浚いや犬の散歩なんてものもやってましたね」

「なるほど、都市の中でできるような依頼が多いんですね」

「はい。ですが、それは新人の冒険者が背伸びをして魔獣に殺されないようにという冒険者ギルド側の配慮なんですよ」


 学園のダンジョンでも無理をして怪我をしたりダンジョンに取り残されるような者がいたりもするので納得するしかない。実際にゾランがアルたちを嵌めようとして勝手に脱出できなくなった事例もあるのだから。


「それは必要な配慮だと思います。だったら、俺も冒険者になったらそういうところから始める必要があるんですね」

「えっ? アル様は冒険者になるつもりなんですか?」

「そうですよ。意外でしたか?」


 エルザの反応にアルは悪戯っぽく笑って見せた。


「えっと、その、はい。先ほどの魔法も熟練したものが感じられましたし、貴族の方ですから家のお手伝いをされるものと思っていました」

「お恥ずかしい話ですが、俺は属性のレベルを1しか授かることができなかったんです。魔法学園ではFクラスですし、そもそも三男ですから居場所がないんですよ」

「そうだったんですね。貴族の方を羨ましいと思ったことがありますが、アル様は大変なんですね」

「そうなんですよ。ですから、こうして先輩冒険者の方から話を聞ける機会というのは俺にとってはとても貴重なんです」


 二人も冒険者の話を聞けると思っていたのだが、そのうちの一人がガバランだということに内心で落ち込んでいたものの今は気持ちを切り替えている。

 エルザから身になる話を聞いて学園卒業後の冒険者への道をより良いものにしようと考えていた。


「貴様程度で冒険者を続けられるとは思わんがな」


 そんな時にボソリとガバランが呟いた。


「どういうことですか?」


 発言の真意を知りたいと聞き返したのだが、それ以降はまた無言を貫いてしまったので気にしないことにした。

 しかし、この発言にはアルだけではなくエルザも気になったようだ。


「ですがガバランさん、アル様の魔法はとても熟練しています。これだけの魔法が使えれば飛び級も可能だと思いませんか?」

「あの程度の魔法で飛び級だと? 貴様、ふざけているのか、Dランクが口を挟むんじゃない!」

「ちょっとガバランさん! 冒険者同士仲良くしてもらわないと困ります! 依頼に支障が出るようなら、こちらから依頼失敗で断らせていただきますよ!」

「はんっ! 俺は貴様に助言をしてやったんだ、ありがたく思われても叱責される覚えはないな!」


 そう吐き捨てると馬車の奥に座り直して目を閉じ寝てしまった。

 護衛としてはどうなのかとも思ったのだが、アルが索敵できる範囲内では魔獣の気配は感じられない。ガバランもそれを承知の可能性はあるので何も言わなかった。

 その代わりにエルザから冒険者の話をじっくり聞くことができると考えることにしたのだ。


「冒険者になるには何が必要とかありますか? 資格とか、登録費用とか?」

「資格は必要ありません。登録費用は必要ですが、それも中銀貨1枚なのでアル様なら問題はないと思いますよ」

「そうなんですか?」

「えっと……魔法装具は金貨だったり、物によっては白金貨が動くこともあるので」


 そこまで話を聞いて、アルは自分がオールブラックを使用したことを今さらながらに思い出した。

 魔法装具は貴族でも一本持っているかいないかの貴重で高価なものである。それを持っているアルが中銀貨1枚を準備できないとは思えなかったようだ。


「学園のダンジョンから魔獣の素材を回収したりもしているんですが……ブラックウルフの素材とかだといくらくらいで買取りされるものなんですか?」

「ブラックウルフなら牙や爪で大銅貨5枚から小銀貨1枚あたりではないかと。痛みの少ない毛皮とかなら大きさにもよりますが小銀貨3枚とかもありますね」

「そうですか……だったらなんとかなりそうですね」

「えっ? もしかして、ブラックウルフをダンジョンで狩ったんですか?」


 驚いたように口を開いたエルザを見てアルは首を傾げてしまう。

 特殊個体ではない普通のブラックウルフは学園のダンジョンだと八階層から出てくる魔獣である。

 一年次では珍しいかもしれないが学年が上がれば他の生徒も狩る機会が多い魔獣なのだから驚く必要はないのではと思ったのだ。


「ブラックウルフは数が多いので単独での討伐が難しいと言われているんですよ。パーティを組まれていたとは思いますが、それでも狩るのは大変ではないかと思ったんです」

「そうなんですね。それはダンジョンの中の話ですか? それとも野生の魔獣ですか?」

「野生ですね。ダンジョンに関しては、正直私は潜ったことがないので」


 恥ずかしそうにしているエルザだったが、アルとしては気になる発言だった。

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