第134話:悪い雰囲気
馬車がユージュラッドを出発してから数時間、アルとガバランは馬車の中で二人だったのだがずっと無言だった。
わざわざアルから話題を作る理由もなく無言でも問題はなかったのだが、エルザは二人の様子が気になっていたようだ。
「きょ、今日は出立日よりでしたね!」
「……そうですね。天気に恵まれてよかったです」
無言を貫くガバランを見て、アルが返事をする。
依頼主に気を使わせるのはどうかと思ったが、冒険者がどのようなものなのか分からない以上は文句も付けられない。
しばらくは様子を見る意味でも二人に対応するつもりでいた。
「そういえば、アル様はどうして氷岩石の採掘をされるんですか?」
「ひょ、氷岩石だと!?」
エルザの質問に対して、何故だかガバランが反応を示した。それも、驚いたかのように。
「は、はい。アル様のご依頼は氷雷山の山頂へと向かい、そこにしか存在しない氷岩石を採掘することですよ?」
「ノ、ノースエルリンドに向かうだけではないのか!」
「違います。俺の依頼はエルザさんの言う通りで氷岩石を採掘すること。先ほどもまずはノースエルリンドへ、と言っていたじゃないですか」
「……き、聞いていないぞ!」
何を今さらと言わんばかりにアルは口にした。もし依頼内容を把握していないのてあれば、それはガバランの落ち度でありこちらが悪いわけではない。
ユージュラッドでのやり取りも含め、ガバランを切るかどうかは早い段階で判断しなければならないかもしれないとアルは考えていた。
「それならば、辞退されますか? 俺はそれでも構いませんよ?」
「で、ですが、そうなるとガバランさんのギルドカードに──」
「たかが氷雷山だろう! 私ならば問題ないさ! ふんっ!」
レオンの前で見せていた態度とは打って変わり、尊大な態度を取るガバラン。
エルザが困った表情を浮かべているのであまりよろしくない態度なのだろう。
それでもノースエルリンドまでは様子を見ようと考えて曖昧に笑みを浮かべる。
しかし、ガバランにはアルの態度が自分優位だと勘違いさせたようでさらに尊大な態度を見せ始めた。
「それと、私は御者を務めるつもりはありませんよ」
「それは父上との約束を反故するおつもりですか?」
「ふんっ! あの場ではあのように答えないと出発が遅れそうだったからそう答えたまでで、私が御者を務めるメリットがどこにもないのでな!」
「そもそも、出発が遅れたのはガバランさんが遅れたからでしょう? いったい何をやっていたんですか?」
アルの追求にガバランはギロリと睨みを利かせてきた。
それでもデーモンナイトと対峙したこともあるアルにとっては迫力に欠けるものであり、特に何も感じるものがなく嘆息してしまう。
「貴様、なんだその態度は!」
「依頼主はこちらです。ガバランさんの態度こそ改めるものではないですか?」
睨み合うアルとガバラン。馬車の雰囲気は最悪としか言えず、このままでは初日にて問題が起こりかねない。
「あっ! ホ、ホオジロ鳥がいますよ! 珍しいですね!」
場の空気を和ませようとエルザが空を飛ぶ一羽の鳥を指を差しながら口を開く。
アルとしてもこのままの雰囲気が良いとは思わないのでエルザの気遣いに答えることにした。
「ホオジロ鳥の肉は甘みがありとても美味しいと聞いたことがありますよ」
「へぇー、そうなんですね。私は食べたことがないので一度でいいから食べてみたいです! ガバランさんはどうですか?」
「……」
「……ガバランさん?」
「……」
ここでも無言を貫くガバランに再び嘆息しつつ、アルはエルザの隣に移動するとホオジロ鳥をその目で捉えた。
「せっかくですし、あの鳥を狩って休憩の時に食べちゃいましょう」
「えっ? で、ですが、どのように狩るのですか?」
「エルザさんの魔法では届きませんか?」
「その、私は魔法が苦手でして……」
「はんっ! よくそれで冒険者を続けているものだな! むしろ、カーザリアから出て行った方がいいんじゃないのか?」
さすがに我慢ならないと馬車の中に戻ろうとしたアルだったが、服の裾を掴まれて振り返る。そこではエルザが苦笑しながら首を横に振っている。
「……だったら、ガバランさんが狩ってくれませんか?」
「どうして私がそのようなことを。食料は十分に持ち込んでいる、その必要はないし無駄な体力を使う必要もない」
依頼主に対してここまでの態度を取れるということはそれなりに実力者なのか、それとも強力な後ろ盾でもいるのか。
とにかく、今はそんなことを考えている場合ではない。ホオジロ鳥がどんどんと離れて行っているからだ。
「ならば、俺がホオジロ鳥を狩ったとしてもガバランさんはいらないということでよろしいですね?」
「いらんな! そもそも、貴様に狩れるとも思わん!」
「あの、アル様? 私もあのように言いましたが叶わないものを望むわけにはいきません。ご無理をなさらないでください」
「大丈夫ですよ、エルザさん」
アルはニコリと笑うとその場で立ち上がるとオールブラックを構える。そして──
「ウォーターアロー!」
風を切り裂き放たれたウォーターアローは寸分違わずホオジロ鳥の体を貫き、進行方向の地面に落下した。
「ほら、大丈夫だったでしょう?」
アルが笑顔で振り返るとエルザの表情には驚きの中に尊敬が含まれていたが、ガバランは何やら憤慨しているように見えていた。
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