第132話:魔法剣披露

 ――結果として、魔法剣はアミルダの許可が出るまでは人前で使わないようにとお達しが出てしまった。


「こんなものが世に出たら魔法師の未来が変わっちゃうわよ!」

「でも、前線で戦う冒険者からすると素晴らしい技術だと思うんですけどね」

「だから、学園では使わないでよね! ダンジョンで、知っている人以外に誰もいない場所以外では絶対に使わないで!」

「み、味方になってくれると思ったのに」


 レオンの思惑とは大きく異なる反応かと思っていたのだが、アミルダは突き放すために言ったわけではなかった。


「違うわよ! これが新技術として出回ったらアルに貴族が唾を付けに来ちゃうわけ! そうなったら冒険者になるっていう目標も達成できなくなるのよ!」

「そ、それは困りますよ!」


 貴族というのは新しいものを発信したがる習性にあるようで、それが魔法の新技術となれば何を支払ってでも欲しいと思うものらしい。

 相手が平民であれば大金を積み上げ、貴族であれば子供との結婚話を持ち掛けて家に取り込もうとする者までいる始末だ。

 ノワール家は下級貴族なので上の貴族からの結婚話が後を絶たなくなるだろう。


「だから、むやみやたらに使わないこと、見せつけないこと、秘匿することが必須なの、分かった?」

「わ、分かりました」

「ちなみに、誰が魔法剣のことを知っているの?」

「その質問、父上にもされましたよ」


 苦笑しながら魔法剣について知っている六人の名前を挙げると、ここでも絶対に口にしないよう釘を刺されてしまった。


「でも、俺が冒険者になったら思う存分使うつもりですけどいいですか?」

「うーん……まあ、そこは致し方ないわよね。でも、貴族から接触があっても絶対になびかないように。どうしても話を聞かないといけなかったとしても取り込まれないよう注意すること、いいわね?」

「は、はい」


 アルの返事を聞いたアミルダは満足したのか、そのまま地上に戻ろうと魔法を発動する。

 気配を希薄化させる、と簡単に口にしていたもののそれができるのは闇属性に相当詳しいからに他ならない。

 ペリナからはレベル1の闇魔法について教えてもらったが、それ以上となると師事できる者がいないと思っていた。


「……ヴォレスト先生、俺に闇属性を教えていただけませんか?」


 断られること覚悟で聞いてみたのだが、その返答は意外なものだった。


「アイテムボックス以上の利益をダンジョンで出せたら、考えてあげてもいいわよ」

「……い、いいんですか?」

「条件を満たせたらね。何よ、断って欲しかったの?」

「断られると思っていたので」

「まあ、闇属性には悪い意見が多いからそう思うのも仕方ないけど、闇属性を研究する一人の魔法師としては嬉しい提案だからね」


 闇属性というだけで忌避されるのだから、アルのように教えて欲しいと口にする者の方が少ないのだろう。

 研究のために協力者を募ろうとも集まらないだろうし、だからこそアミルダは自身を実験体として魔法を使ったのかもしれない。


「……ありがとうございます。すぐには無理だと思いますが、利益を出せたらお願いします」

「せっかくなら夏休み中も潜っていいわよ? アルなら一人で最下層まで行けちゃうんじゃないの?」

「残念ながら、夏休みは北に向かうのでユージュラッドにいないんですよ」

「……えっ、聞いてないんだけど!」

「まあ、言ってませんからね」


 学生の夏休みの予定など学園長が知る必要はないはずだ。報告が必須とも聞いていないのでリリーナやクルル、エルクたち以外には伝えていなかった。

 剣術も魔法剣も見せているので理由を伝えてもいいかと、氷雷山へ氷岩石を採りに行くのだと簡潔に説明した。


「……一人で行くの?」

「父上が護衛を探してくれているので、その方々と向かう予定です」

「……地上に戻ったら、ちょっとレオンと話をしてくるわ」

「……はい?」

「私も護衛の選別に力を貸すと言っているのよ!」


 何故そうなるのか理解に苦しみ、アルはこめかみを押さえながら理由を説明するよう求めた。

 すると、その答えは単純明快だった。


「アルに何かあったら、アイテムボックスのお金を回収できなくなるからよ!」

「お、俺の心配じゃないんですね!」

「心配してるわよ! それがあるからこそ、アイテムボックスのお金問題が浮上するんじゃないのよ!」

「……返しましょうか?」

「ごめん、本気でアルを心配しているのよ、本当よ?」


 あはは、と笑いながらそう口にしているのだがアルはジト目を向けて怪しんでいる。

 とはいえ、優秀な護衛がついてくれるのはアルとしてもありがたいことではあるので嘆息しながらではあるが納得することにした。


「それじゃあ、父上には俺から話を通しておきますね」

「何を言ってるのよ」

「何って、父上と話をするんですよね? だったら家でも準備を――」

「私が呼び出すんだから必要ないわよ」

「……あー、そうですか。うん、もう何も言いません」


 学園長という立場だからなのか、それともアミルダとレオンの関係性がそうさせているのか。

 アルは詮索することなく、大きな溜息をつきながらダンジョンを戻っていくのだった。

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