第131話:アミルダへの報告

 夏休みが一週間後に迫ったある時、アルはアミルダに呼び出されて学園長室へとやって来ている。

 他に誰もおらず、二人だけの空間で話し合われるのは――アルの能力についてだ。


「さあ、白状しなさい! あなたの隠された能力を!」

「魔力融合のことですか?」

「まあ、すぐには暴露しないでしょうね。ペリナにまで口止めを……って、えっ?」

「後は剣術を学んでいるということでしょうか」

「あの、えっと……」

「魔法剣はまだ発展途上ではありますけど、考えていることはありますよ」

「……あ、そう」


 ペリナに口止めまでしていた自らの能力について、こうもあっさり暴露されるとは思わなかったアミルダは呆気にとられた表情で固まっている。

 事前にレオンからアミルダには伝えておくように言われていたのでこういう結果になってしまったのだが、その理由を伝えないと納得してくれないだろうと思い口を開いた。


「父上から、ヴォレスト先生を味方にしろと言われたんですよ」

「……レオンから? ということは、結構面倒なことになりそうねー」

「自分から聞いておいて、それを言いますか?」

「アルのことだからそうだろうとは思っていたけど、実際に耳にするとドッと疲れが溜まるのよ。剣術はいいとしても、魔法剣って何よ?」


 剣術はいいのかと内心で思いながらも食いついてきた魔法剣について説明を行う。

 剣術ありきの魔法なので学園に取り入れることはできないだろうと前置きしたうえでの説明だったからか、アミルダは顔をしかめながらも口を挟むことなく話を聞いてくれた。


「――とまあ、そんな感じで魔法を剣に纏わせているんですよ」

「そんな感じでって、全く想像がつかないのよね。実際に見せてもらうこともできるかしら?」

「実際にって……ここでですか?」


 さすがに危ないと言おうとしたのだが、アミルダは笑みを浮かべながら立ち上がるとドアの前に立って口を開いた。


「ダンジョンでよ」

「……はい?」


 こうして、アルは予定にはなかったダンジョンへと向かう。もちろん、学園長であるアミルダと一緒に。


 ※※※※


 これでは目立ってしまう、と思ったのだがそうはならなかった。というのも、ダンジョンへ向かう道すがら教師や先生とすれ違ったのだが誰も二人の存在に気づくことがなかった。

 普段感じることのない魔力を感じていたこともあり、アミルダが何か魔法を使っているのだろうとその背中を見つめている。

 そのままダンジョンへ到着すると中へ入っていったのだが、人間だけではなく魔獣すらも二人の存在に気づくことはなかった。


「……ヴォレスト先生。もしかしてですが、先生の心の属性は闇属性ですか?」

「……そういうこと。今は私たちの気配を希薄化させて見え辛くしているのよ」


 だからと言ってすれ違う相手にすら存在を感じさせないというのは恐ろしいと感じてしまう。

 闇属性が良く思われないという理由にも頷けるのだが、ならば魔法学園のトップに闇属性が心属性である人物を据えるのに問題はないのかと疑問を覚えていた。

 アルの疑問に気づいたのか、アミルダは笑いながら理由を説明してくれた。


「私の場合は実績をとにかく積み上げたのよ」

「実績ですか?」

「そうよ。魔獣討伐やダンジョン攻略、特に力を入れたのは闇属性の魔法研究ね」

「……そっちの方が怖いんですけど」


 闇属性を得意とする魔法師が闇魔法を研究するのだから危険を伴わないのかと思ったのだが、それも仕方がないのだとアミルダは笑う。


「闇魔法を研究するには、闇属性が得意な魔法師が必要になるのよ。私の場合は一人で二役をこなせるから費用も掛からなかったしね」

「一人で二役? ……ま、まさか、ヴォレスト先生は自分に闇魔法を掛けて研究をしていたんですか!?」

「あら、察しがいいわね」


 研究だからと言って自分自身に闇魔法を掛けるのは危険とされている。それは、掛けた魔法を解除できなくなる可能性を秘めているからだ。

 時間が解決することもあるが、そうでない場合は闇魔法を掛けたことを忘れて日常生活に戻り、掛けた状態がいつもの自分だと思い過ごす事例が過去にある。

 優秀だからとそのような危険な真似をしていては命の危険もあったはずだ。


「言っておくけどアルが付けてる魔法装具の指輪は、私が開発したものなんだからね」

「えっ! ……ヴォレスト先生、なんで学園長なんてやってるんですか? 研究者として活動していた方が良かったと思うんですけど」

「そんなもの、理由は一つしかないわ」


 生徒がほとんど到達できていない七階層まで戦闘もせずに辿り着いたアミルダが振り返ると、今日一の笑顔を見せて理由を口にした。


「学園長の方が面白いからよ!」

「……えっ?」

「だって、研究者なんて小さな部屋の中で誰とも言葉を交わさず地味に実験を繰り返すのよ? つまらないなんて言葉じゃ足りないくらいにつまらないのよ! 学園長になれば面白いことがたくさんあるからね!」

「そ、そこまで面白いことがあるんですか?」


 首を傾げているアルだったが、アミルダの視線はジーっとこちらを見ている。


「アルっていう、面白い子にも出会えたしね!」

「……帰っていいですか?」

「せっかくここまで来たんだから魔法剣とやらを見せてよね!」


 アミルダの面白い対象だったのかと頭を抱えながらも、魔法を解いたことで魔獣がこちらの存在に気づき近づいてきている。

 こうなれば倒す以外に道はないと、魔法剣を見せることにした。

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