第125話:魔法装具

 ──ペリナと特別授業をしてから数日後、アルはラミアンに呼び出されてレオンの部屋にやって来ていた。

 何事かと考えていると、ラミアンが一つの箱をアルに手渡してきた。


「母上、これは?」

「開けてみなさい」


 レオンも頷いてくれたのでアルは箱を開けた。


「……これはもしかして、魔法装具ですか?」

「えぇ。アルが持ってきた特殊個体のブラックウルフの牙を使った魔法装具。本当は剣の形で作りたかったんだけど、さすがに学園に持っていくことが憚られるから作れなかったのよ、ごめんなさいね」

「そんな! ……母上、俺はとても嬉しいです!」


 箱の中身は漆黒の杖の形をした魔法装具。

 持ち手がやや太く、先端にいくにつれて細くなっている。持ち手の尻にはノワール家の家紋が彫られており芸術性でも高い作りになっている。

 実際に握ってみると、それだけで魔力が一段階向上したように感じるのは気のせいではないだろう。


「……すごい、ですね」

「名前はオールブラック。アルのために作られた一点物の魔法装具よ」

「オール、ブラック」


 アルが見惚れたかのように眺めていると、ラミアンが少し言い難そうに口を開く。


「ただ、ちょっと問題があるのよね」

「問題ですか?」


 アルとしてはとても満足いく出来なのだがラミアンは少し不安げだ。どうしたのかと見つめていると、少し口ごもりながら教えてくれた。


「……持ってきてくれた素材なら心の属性のレベルを一段階上げることができるはずだったんだけど、アルの場合は特別でしょう?」

「……そうか。心の属性は通常一つ。それなのに、俺の場合は全属性だから問題が起きてしまったんですね」

「えぇ。通常の魔法装具なら問題はなかったんだけど、全属性となると質が足りなかったのよね」


 溜息混じりにそう溢したラミアンだったが、アルには確かに魔力が向上した感覚を得ているので問題とは全く思えなかった。


「でも、魔法装具としての機能に問題はないんですよね?」

「そこは安心してちょうだい。今回はレベルを上げることはできないけれど、全属性でレベルの半分程度は向上するように作ってもらったから」

「なるほど。だから魔力が向上しているように感じたんですね。……母上、ありがとうございます。俺にはこっちの方がより良い魔法が使えると思います」


 魔力融合を使えるアルにとって、一つの属性に特化した魔法装具よりも汎用性に富んだ魔法装具の方が使い勝手が良かった。

 魔法剣に耐え得る魔法装具でなければ、汎用性の高い魔法装具が良いと内心で思ってもいたのだ。


「アルなら魔法装具がなくても学園で良い成績を出せると思っているが、持っていくか?」


 そう口にしたのはレオンだ。

 アルに対する評価が高いレオンとしては、魔法装具がなくても好成績を残せると考えている。本人が目立つことをしたくないと考えていることも理解しているので、あえて持ち歩かなくてもよいのではないかと暗に言っていた。


「そうですね……アイテムボックスに入れて持ち歩こうと思います」

「「……アイテムボックス?」」

「あれ、ヴォレスト先生から聞いていませんか?」


 アイテムボックスを手に入れた経緯を二人に説明すると、同時に大きな溜息を漏らしていた。


「全く、アミルダの奴は何を考えているんだ」

「一五階層まで潜ったアルなら大丈夫だと思うけど、さすがに素材の横流しはどうかと思うわね」

「俺はてっきり二人にも話がされているものと思っていましたよ」

「あいつは自分が不利になることは絶対に口にしないからな。アルから私たちに伝わることは分かっていただろうに」

「まあ、そこもアミルダは考えていたと思いますよ。アルから伝われば嫌でも納得するしかないですからね」

「……そうだな。アルが納得しているなら仕方ないか」


 そこまで考えていたかは定かではないが、そうだとしたら大したものだとアルは苦笑するしかなかった。

 だが、それとは別に二人にはもう一つ気になるものが目に止まっていた。


「それと、その指輪も魔法装具じゃないのか?」

「あ、はい。これは先日スプラウスト先生からお礼として頂きました」

「お礼?」

「ダンジョンで同行したことに対するお礼です」


 さすがに闇属性魔法を教えてもらったお礼とは言えずそう答えたのだが、二人の視線は納得していないようでジーっとアルを見つめている。


「……まあ、言いたくないならそれでもいいが、問題にはならない程度のことなんだな?」

「問題になんてなりませんと。言った通りのお礼なんですから」

「……それならいい」

「アルも秘密を持つようになったのね」


 完全にバレている、そう思いながらも苦笑するに止めてオールブラックをアイテムボックスに入れたアルは話題を変えるために考えていたことを口にした。


「そうだ! 先ほど話にも出ましたが、剣の形をした魔法装具をこれで作れないか相談したかったんです!」

「これというのは、もしかしてデーモンナイトの素材?」

「はい! ……その、見てもらってもいいですか?」

「もちろんだ。私も見てみたいと思っていたからな」


 ラミアンもレオンも興味津々といった感じで口にしたので、アイテムボックスの中から捻れた角を取り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る