第124話:アルの説明とペリナの素質

 ──説明を終えると、すぐには理解されなかったが自分の中で感じ取るということを噛み砕こうと何度も呟いている。


「まあ、そうなりますよね」

「……いや、アル君の考え方は間違えていないわ」

「そうなんですか?」


 予想外の返答にアルは首を傾げている。


「国家魔法師の間でも魔力がどこから来て、どこに消えていくのかという議論はされているのよ。今のアル君の考え方は、その議論の中でも最有力とされている内容なの」

「議論されていたんですね」


 アンナもリリーナたちも知らなかったことだが、魔力を感じ取るということ自体は議論が続いている。

 ただし、実践できる者がほとんどいないことで話し合いは平行線を辿っているのだ。


「実践できないって、まさかですよね? 国家魔法師の方々なのに」

「できる人もいるんだけど、そういう人に限って偏屈な人が多くてね。なかなか協力してくれないって話よ」


 国家魔法師とはいえ一枚岩ではないということだ。

 それでもアルの考えが最有力だと言うなら自分の中では自信につながるので問題はないかと一人納得する。


「でも、アンナでも足掛かりは掴めているのになぁ」

「……えっ、そうなの?」

「はい。俺が流す魔力がどこに集約されているのかまでは感じ取ることができるようになりましたよ。まだ時間は掛かりますけどね」


 複数を一度に見極めることはできないが、一ヶ所ずつなら問題ない。

 ただし、これはあくまでも今の話であって今後は複数を一気に見極めることもできるだろうとアルは考えていた。


「アル君がアル君なら、妹さんも妹さんね。この調子ならキリアン君もガルボ君も、アル君に習ったらできるようになるんじゃないかしら」

「いや、僕と言うよりかはアンナがすごいんですよ。それに、僕はエミリア先生に習ったわけですから、先生もできると思いますよ」

「エミリアさんが? ……はぁ。本当に国家魔法師って人気の職業なのかしら」


 偏屈者が多かったり、自分から国家魔法師以外の道を選んだり、ペリナは国家魔法師にあまりよい感情を持てなくなっていた。


「でもまあ、そういうことならアル君が私の魔法の発動兆候を見極められたことも理解できるわね」


 それでも疑問の一つが解決したことでとてもスッキリした表情を浮かべていた。


「なんならスプラウト先生にも教えましょうか?」

「えっ、いいの?」

「俺だけ闇属性魔法を教えてもらって、お返しができてませんからね」

「あの、素材の提供がお返しじゃないのかしら?」

「あれは魔法装具を購入したことに対するお返しです。魔法を教えてもらったことに対するお返しではありませんよ」


 アルの提案に腕を組んで考え込んでいたペリナだったが、結局は教えてもらうことにした。

 それぞれに対するお返しということにも納得したのだが、それ以上に魔法師として議論されている内容を実際に体感してみたいという興味が優った形だ。

 そして、伝えていくと分かったことだがやはり先生という立場もあるだろうが理解力がアンナやリリーナたちと比べて段違いに高く、一つを伝えればそれだけで二つも三つも先まで理解してしまう。

 そして、すぐに今のアンナと同じところまで魔力を感じ取ることができるようになってしまった。


「……お、おどろきました。スプラウスト先生って、すごい人だったんですね」

「その言い方はちょっと引っかかるけど、まあ優秀な方ではあったわね」


 笑いながらそう教えてくれたペリナは視線を周囲に向けながら魔力をさらに深く感じ取ろうとしている。

 その姿を見て魔力を頭から腕に移動させてみると素早く反応して指摘した。


「本当に素晴らしいです。あっという間にアンナを超えていきましたよ」

「さすがに入学前の子供に負けるわけにはいかないからね」

「確かにそうですね」


 身内贔屓というわけではないが、アンナのことを高く評価しすぎていたようでアルは反省していた。

 加えてペリナの優秀さを改めて理解し、そしてガルボ救出に同行してくれたことを深く感謝した。


「それじゃあ、今日はこれくらいにしましょうか」

「はい。スプラウスト先生、本当にありがとうございました」

「それはこっちのセリフよ。とっても貴重な経験をさせてもらったわ」


 第五魔法場を後にしようとした時、アルはペリナに呼び止められて振り返る。


「これあげるわ」

「え──っと! ……先生、これって」

「私には必要ないし、冒険者を目指すなら装備を充実させることも大事だよ!」


 投げ渡されたのは闇属性耐性が施された指輪だった。

 アルは慌てて返そうとしたのだが、ペリナは背中を見せて手を振りながらさっさと歩いていってしまった。


「……これは、購入額以上の素材を渡さないといけないかな」


 そう思い直したアルは、指輪をありがたく頂き指につけて帰宅の途についたのだった。

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