第126話:捻れた角
捻れた角を見た二人は真剣な眼差しを向け、そしてゆっくりと手を伸ばしてレオンが持ち上げた。
「……これは、人前には出せない逸品だな」
「……どうやら、オールブラックを作って正解だったかもしれないわね」
「どういうことですか?」
レオンの言い方ではとても質の高い素材だと思うのだが、ラミアンの言い方ではオールブラックの方が質は良いと言っているように聞こえる。
どちらの意味合いが強いのか分からなかったアルは困惑していた。
「アルは剣の形で魔法装具が欲しいと言っていたでしょう? 仮にブラックウルフの素材で作っていても、剣として振るには耐えきれずに壊れていたでしょう。でも、この素材なら剣としても素晴らしい一振りを作ることができるはずよ」
「そうだな。ただし、それを作るには一つ難点がある」
「難点……それはいったい?」
足りないものがあれば手に入れるまで。それがダンジョンで手に入れることができる素材であればマッピングを一旦中止してでも深い階層へ潜りたいと考えていた。
「これだけでも剣としての機能を残したままで魔法装具を作れるだろうが、それだけではアルの技術に耐え得る業物にはならないだろう」
「そうするには何が必要なんですか?」
「デーモンナイトの素材と相性の良い鉱石が必要だ」
「……こ、鉱石、ですか?」
予想外の答えにアルは聞き返してしまった。
「その通りだ。素材だけではその素材の硬度しか反映されないが、鉱石と合わせて作ることで剣としても耐え得る硬度を備えた魔法装具を作ることができる」
「その相性の良い鉱石が何なのか、父上は分かるのですか?」
「いいや、私には分からない。だが、魔法装具の専門家なら調べることができるだろう」
「そういうことでしたら、オールブラックを作ってもらった職人に依頼してみましょう」
「ですが、いいんでしょうか。ご迷惑にはなりませんか?」
オールブラックを作るために依頼を出し、さらに捻れた角と相性の良い鉱石を調べてもらう。
ラミアンが依頼している職人なのだから腕は間違いなく良いはずで、となれば他からの依頼も多くあるだろうとアルは考えていた。
「大丈夫よ。そこまで仕事をする人じゃないし、何より珍しい素材で仕事をしたがる人だからこの素材を見たらあちらから仕事をしたいと頭を下げてくると思うわ」
「……そ、そうなんですか?」
「職人なんてそんなものよ」
「ラミアンの職人に対する認識はどうかと思うが、あいつならば言う通りだから安心しろ」
「……えっと、二人がそう言うなら、お願いします」
本当に大丈夫なのかと不安になりながらも、アルは捻れた角をラミアンへ預けることにした。
「そうそう、アルは何か新しい魔法を考え出したとか言っていたわよね?」
唐突なラミアンの言葉にアルはなんのことだと思ったが、最初のパーティ訓練から戻ってきた時の帰宅時に話をしていたことを思い出した。
そして、その言葉に反応を示したのはレオンだった。
「新しい魔法、だと?」
「アルは私に内緒で色々と考えているみたいなの。聞いても教えてくれないし、何をしているのか気になるわー?」
「……アル、話してみなさい」
ラミアンはレオンならそう言うだろうと考え、あえてこの場でアルの魔法について口にしていた。
相手がラミアンなら、冗談混じりで誤魔化せるのだが、レオンとなれば話は別だ。特に本気で知りたいことの場合には自然と迫力が出てしまい冗談すら言えなくなってしまう。
「……魔法剣、です」
「魔法剣だと?」
故に、説明するしかなくなってしまった。
とはいえ、ただ剣に魔法を纏わせて斬りかかる、としか説明のしようがない。
魔法に耐えることができる剣として、魔力透過性の高い素材で作られたものが必要だということを付け足した。
「──なるほど、そういうことか。ならば、なおさらデーモンナイトの角で作った方が良さそうだな」
「は、はぁ」
「それとな……魔法剣について知っているのはどれほどいるんだ?」
最後の質問は鋭い視線で問われ、アルは素直に答えた。
リリーナとクルル、そしてガルボパーティとペリナの六人だと。
「そうか……その六人には、絶対に口にしてはいけないと改めて釘を刺しておくように」
「わ、分かりました」
「それと、アミルダにも伝えておくんだ」
「ヴォレスト先生にですか?」
「あぁ。アミルダなら、アルの力になってくれるはずだからな」
そう伝えられると、話は終わりアルは部屋を後にした。
「……全く、アルはとんでもないことを考えるな」
「それでも応援するんですね」
「まあ、息子のやることだからな」
微笑みながら答えたレオンを見て、ラミアンも笑みを浮かべるのだった。
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