第122話:夏休みの予定

 ダンジョンで起きた騒動以降、ゾランからの嫌がらせはぱったりと無くなっている。

 アミルダが雷を落としたことも理由の一つなのだが、それ以上にザーラッド家当主である父親からの言葉がかなり効いていた。

 上級貴族の子弟が下級貴族に負けるなど言語道断、さらにはレオンからの抗議もありアミルダ以上の雷が落ちている。

 卒業するまで一生、とは言えないだろうがしばらくは問題ないだろうとアルベルトは考えていた。


「ねえねえ! 夏休みは何をして過ごすの!」


 教室に到着してから開口一番、クルルが夏休みの予定について聞いてきた。


「私は家族で避暑地へ行く予定です」

「俺たちは家の手伝いかなー」


 下級貴族とはいえ、やはり貴族と平民ではこうも過ごし方が違うものかとアルは思ってしまう。


「アルはどうするの?」

「夏休みがこんなに早く来ることも知らなかったからな。全く考えてない」

「えっ! お兄さんたちから聞いてなかったの?」

「前にも言わなかったか? そこまで学園のことは話してないんだよ。ガルボ兄上とは、今回の騒動で仲直りするまでは家でも口を利いてなかったからな」


 そう伝えると、改めて予定は早めに決める必要があるなと考える。


「そういうクルルはどうするんだ?」

「私? 私も基本は家の手伝いかなー。でも、夏休みの時期にはお祭りもあるでしょう? もしみんながユージュラッドに残ってるなら一緒に行きたいなって思ってたのよ!」

「あっ! その時には帰ってきているので私は行けますよ!」

「私たちも、問題なし」

「僕も大丈夫ですよ」

「あー、俺は親が屋台を出すから手伝いに駆り出されるかも」


 お祭りと聞いて、アルは入学前に一度だけチグサを伴い足を運んだことがあったと思い出していた。

 アルベルトとしての記憶もあるので楽しめるのかどうかと考えていたのだが、不思議と気持ちは高揚し思いの外楽しめたものだ。


「それじゃあお祭りの日はみんなでエルクの屋台に行って、それから楽しみましょう!」

「はぁ、俺も行きてえなぁ」

「アルも予定が決まったら教えてね!」

「あぁ、分かった」


 そんな感じで話が進んだところにペリナが教室に現れた。

 そのまま授業に入ったので話は終わったのだが、頭の中は夏休みをどう過ごすかを考えていた。


 ※※※※


 放課後、アルはペリナに声を掛けられて誰もいない第五魔道場にやって来ている。

 理由はただ一つ──闇属性魔法を教えてもらうためだ。

 人前で堂々と教えることが憚られる闇属性魔法だが、ガルボ救出の際にペリナが使用しているのを目撃したアルが指導をお願いした形になる。

 ただし、アルもペリナには教えなければならないことがあるので情報交換の意味合いが強いのだが。


「さて、それじゃあ先に闇属性魔法について教えていくけど、約束してほしいことがあるの」

「絶対に人には使わない、ですよね?」

「……分かってるじゃないのよ」

「魔法適性を調べる時に闇属性があると分かった時点で、エミリア先生にきつく言われていましたから」


 苦笑するアルに対して、ノワール家がエミリアを家庭教師として雇っていることを思い出したペリナは納得顔で闇属性についての説明を始めた。


「それじゃあ知っていると思うけど、闇属性は状態異常を司る属性です。私がダンジョンの一〇階層でフレイムリザードに使ったのは視界を奪う魔法です」

「レベル1でその効果は破格な気もしますけど」

「まあ、視界を奪うとは言っても周囲に黒いモヤが映し出されて見え辛くするって言ったほうが正しいかもね」


 完全に視界を奪うわけではないので真正面から使ってもあまり効果はなく、あくまでも不意打ちでしか使えないのだと念を押す。


「もし自分が闇魔法を掛けられた場合の対処法とかもありますか?」

「……アル君、何か変なことでもやろうとしているのかしら?」

「ち、違いますよ。僕は将来冒険者になるつもりなので、そういうイレギュラー的なこともあるかもしれないってことです」

「あぁ、そうだったわね。……でも、もったいないわ。アル君だったら国家魔法師になってもおかしくない実力を持っているのに」

「世間はレベルが大事ですからね。どれだけ上手に魔法を使えようとも、レベルが1しかないのであれば役立たずってことになりますから」

「役立たずって……でも、今のカーザリアがそうだからなぁ」


 大きく溜息をつくペリナだったが、アルの時間を無駄にするわけにはいかないので質問に答えようと気合いを入れ直す。


「えっと、闇魔法を掛けられた時の対処法だったよね。うーん、対処法と言っても色々あるんだけど、アル君の場合は適性を持っているから闇属性に対して多少の耐性はすでに持っているのよ」

「そうなんですか?」

「えぇ。でも、あくまでもレベル1程度の耐性だけだから、レベルの高い相手からの魔法では多少の効果減はあるけど状態異常には掛かってしまうわ。そこでもう一つの方法」


 ウインクをしながら懐に手を伸ばしたペリナが取り出したのは、小さな宝石が嵌め込まれた指輪だった。


「それはなんですか?」

「これは闇属性への耐性強化が付与された魔法装具マジックアイテムよ」

「……魔法装具?」


 意外なところで魔法装具が出てきたことにアルは驚きを隠せなかった。

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