少し早い夏休み

第121話:報告

 ダンジョンで起きた事件から数日が経ち、騒動は徐々に落ち着きを取り戻していた。

 イレギュラーの原因は結局分からずじまいだったが、ソウルイーターやデーモンナイトという学生が対処できる域を超える魔獣が現れてなお死者を出さなかったことが一番の救いだった。

 そして、調査の結果はガルボたちがイレギュラーに関わっていないことも証明したようでお咎めなし。というか、ただダンジョン攻略に勤しんでいただけなのだから当然と言えば当然である。


「でも、どうやって関わっていないことが証明できたんですか?」

「特殊個体になった魔獣の素材を特別な方法で鑑定したらしい。もし俺たちが関わっていたなら、誰かの魔力残滓が残っているのが普通らしいんだが、それが確認できなかったことが証明になるんだと」


 アルの疑問にガルボが答えると、感心したかのように頷いていた。

 二人は現在、学園の廊下を並んで歩いている。学園長であるアミルダに呼び出されて学園長室に向かっている最中なのだ。


「それにしても、ガルボ兄上だけじゃなくどうして俺も呼び出されたんですかね?」

「分からん。だが、アルが学園長と仲良くしているって噂が流れるくらいだから、その辺りが理由になるんじゃないのか?」

「えっ、そんな噂が流れてるんですか?」

「知らなかったのか? お前が学園長室にしょっちゅう出入りしているのは有名な話だぞ?」


 回収した魔獣素材を人前で出さないようにと配慮した結果が、結局注目を集めることになっていると知ったアルは盛大に溜息をついてしまう。


「……アイテムボックスまで融通してもらったのに」

「アルはすごくできるのに、変なところで抜けてるよな」

「す、すみません」

「いや、いいんだ。アルの意外な一面を見れて、お前も年相応なんだなって思ってたところだからさ」


 そんな何気ない会話をしていると、あっという間に学園長室の前に到着した。

 ノックをすると中から返事が聞こえてきたのでドアを開けて中へ入る。


「やあ、待っていたよ、二人とも」

「失礼します、学園長」

「失礼します」

「急に呼び出してしまいすまなかった。そのままこちらに腰掛けてくれ」

「はい!」


 いつもと態度が違っているアミルダに怪訝な表情を浮かべながら、アルは促された椅子に腰掛ける。


「……アル君、どうしたんだい?」

「いえ、いつもと態度が違うなーって思いまして」

「おい、アル! 学園長の前でその態度はなんだ!」

「えっ、でも……あー、そういうことですか」

「ゴホン! ……では、本題に入ってもいいかな?」

「……どうぞ」


 普段をさらけ出せる人と、そうでない人の前では態度を分けているのかと理解したアルはアミルダの態度を気にすることなく対外的な態度で受け答えすることにした。

 アミルダもアルが理解したことを察したのか話を進めていく。

 今回二人が呼び出された理由、それはダンジョン内の話を当事者から直接聞きたかったとのことだった。


「報告書にまとめてもらったが、文字だけでは伝わらない部分もあるからな」


 というのがアミルダの本音らしい。

 多くの教師が生徒に報告書をまとめさせろ、自分たちがわざわざ聞く必要はないと面倒を生徒に丸投げしていたことも直接聞きたかった理由の一つだ。

 教師がこれでいいのかとも思ったが、来年には教師陣も一掃する予定だとボソリと呟いていたことはこの場だけの内緒である。


「――……ふむ、概ね報告書の内容通りではあるが、本当に何か異常を感じたことはなかったんだな?」

「はい。そこに関しては私もフレイヤとフォルトと何度も確認しましたが同意見でした」

「そうか……アル君はどうだい? ペリナと一緒にダンジョンに潜り、変だと感じとことはなかったか?」

「俺も特には。ただ、報告書にも書きましたが九階層で遭遇したデーモンナイト、あれに遭遇した時だけは正直生きた心地がしませんでしたね」

「デーモンナイトか。本来なら、国家魔法師が数人で対処するほどの魔獣なんだがな」


 大きく息を吐き出したアミルダは一度背もたれに体を預けると、すぐに姿勢を正してアルを真っ直ぐに見つめる。


「デーモンナイトの討伐は、あの場にいた全員で協力して討伐したと報告書には書かれていたが、それは間違いないんだな?」

「間違いありません。討伐できたからこそ、俺たちはこの場にいるわけですから」


 アミルダの視線を真っ向から見つめるアル。二人の迫力に隣に座っているガルボは自然に手に汗を握っていた。


「……まあ、そういうことにしておこう」

「いや、それが事実なんですけど」

「おいおい、ペリナを締め上げてでも事実を聞き出そうと思っているからね」


 ニヤリと笑うアミルダを見て、アルはペリナにしっかりと釘を刺しておかなければと心に誓った。


「わざわざ足を運んでもらってすまなかったな」

「いえ、私たちは学生の身分ですから、学園長に呼ばれればすぐにでも伺います!」

「アル君はどうなんだい?」

「……用事がなければ」

「お、お前、アル!」

「くくくく、まあいいさ。それよりも、二人は夏休みの予定を決めているのかい?」

「……夏休み?」


 アルが首を傾げていると、ガルボが説明してくれた。


「あと一ヶ月もしたら、夏の長期休暇に入るんだ。これは各学園の気候によって異なるんだが、ユージュラッド魔法学園は早い方だな」

「その分、後半の休みが少なくなるから良い悪いはないんだがな」

「そうだったんですね」

「私はパーティの面々と勉学に励み、今年の卒業を狙いたいと思っております」

「そうか、殊勝なことだな。アル君はどうなんだい?」


 夏休みがこんなに早くあることすら知らなかったのだから、予定があるはずもない。


「……これから考えたいと思います」

「予定は早くに決めておくことをオススメするよ。何せ、時間は有限だからな」

「……はぁ」


 アミルダへの報告も終わり、二人はそのままお互いの教室へと戻っていった。

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