第120話:家族会議
翌日は朝から物々しい雰囲気の中で朝食となった。
久しぶりに家族全員が揃っての朝食なのだが、物々しい雰囲気の原因は当然ながらレオンとガルボだ。
キリアンは久しぶりの呼び出しで何事だろうと全く事情を知らされていなかったので困惑しており、アンナは二人の間で何かがあったことだけは気づいているので視線を何度も往復させている。
唯一ラミアンだけが笑顔のままなのだが、この状況だとその笑顔が逆に事情を知らない二人に恐怖を与えていた。
「……さて、食事の前に一つ大事な話をしておきたい」
無言の時間が続いていた中、ようやくレオンが口を開くと全員の視線がそちらへと向く。
「今回キリアンまで呼び出して聞いてもらいたかったことは、ガルボの処遇についてだ」
「ガルボの? 父上、いったい何があったのですか?」
「あの、私も詳しい事情は知らないのですが」
キリアンとアンナからの質問に、レオンは昨日までの一件について説明を始めた。とは言うものの、ダンジョンで起きたイレギュラー云々ではなくガルボの態度についての話だ。
家族への態度はもちろん、学園での成績や態度、そしてアルに向けられていた拒絶感への処遇というわけだ。
全員が無言のままレオンの話を聞いていたのだが、ノワール家を継ぐことになるだろうキリアンは途中から拳を握りしめて体を怒りで震わせている。
そして最後まで話を聞き終わると無言で立ち上がり突然ガルボの胸ぐらを掴んで無理やり立たせたのだ。
「ガルボ! お前、アルに対してそんな態度を取っていたのか! 薄々は気づいていたが、そのうち仲直りできると思っていたから口には出さなかった。それなのに、お前は!」
「キ、キリアン兄上、落ち着いてください!」
「いいや、落ち着いていられるわけがないだろう! それにアルもアルだ! ここはお前が怒るべきところだろう!」
「いや、そうなんだけど、俺とガルボ兄上はもう──」
「ガルボお兄様、どうしてアルお兄様を苦しめるようなことばかりするのですか!」
「ア、アンナまで!?」
レオンの意図は分からない。ガルボが昨日の夜にどのような説明をしたのかも分からない。だが、二人の仲はすでに良好なものになっているのだからここまで言われる筋合いはないのだ。
これでガルボと二人の関係がこじれてしまってはさらなる問題になりかねない。
「……なるほど。二人の意見がよく分かりました──父上」
「ち、父上?」
「お父様、どういうことです……か?」
ガルボの言葉に困惑を隠せない二人がレオンの方へ視線を向けると、あまり見せたことのない笑いを堪えているような表情をしていた。
「……わ、笑いごとではありませんよ、父上!」
「そ、そうですよ! ガルボお兄様がそこまで酷い態度を取っていたなんて!」
「くくく、いや、すまんな。先ほど話した内容は、一昨日までのものだ」
「「……えっ?」」
「ガルボとアルはすでに仲直りしている。それに、ガルボがアルのことを考えて誰にも行動の意図を伝えていなかったことも確認済みだ」
そこからはガルボの意図、そしてアルとの関係が良好なものになっていること等が説明された。
顔には出さなかったが内心でとてもホッとしていたアルなのだが、キリアンとアンナの視線がこちらを向いていることに気づいて首を傾げる。
「どうしたんですか?」
「どうしたって、アルはなんで何も言わなかったんだ!」
「そうですよ、アルお兄様!」
「いや、言おうとしたら二人に遮られたんだけど」
頭を掻きながらそう告げると、キリアンとアンナは顔を見合わせて恥ずかしそうにしていた。
「……というか、最初から父上がちゃんと説明してくれたらよかったのではないですか?」
「……キリアンお兄様の言う通りですね。お父様、どうしてですか?」
二人の矛先はレオンに向いたのだが、当の本人は気にした様子もなく淡々と説明してくれたら。
「ガルボがアルのことを考えているように、キリアンやアンナも同じだということを教えたかったんだ。こいつはアルだけではなく、二人とも付き合いが悪かったからな」
「……そ、それだけ、ですか?」
「それだけだ」
「……えっと、家族のことを考えるのは普通のこと、ですよね?」
「もちろんだ」
簡単な返答に終止し、その答えを聞いた二人は再び顔を見合わせると最終的にはガルボへと視線が向いた。
「……結局」
「……ガルボお兄様が」
「「悪いんじゃないかああああっ!!」」
「いや、まあ、その……すまん」
さすがに助け船を出すことができずにアルは苦笑を浮かべている。
それでもアルとガルボだけではなく、家族仲まで丸く収まったことで心のつっかえが一つ取れたように感じていた。
「はいはい、それじゃあみんなで美味しい朝ご飯を食べましょうか。今日はキリアンも戻ってくると聞いていたから、張り切っちゃったんだからね!」
「おぉ! 母上の手料理は久しぶりです!」
「私もお母様の手料理は大好きです!」
先ほどのいざこざがなかったかのように、キリアンとアンナは笑みを浮かべている。
「俺たちも食べましょう、ガルボ兄上」
「……そうだな、食べよう」
アルとガルボが話をしている姿を見たレオンは誰にも気づかれないように笑っていたのだった。
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