第114話:イレギュラー②
激しい剣戟の音が鳴り響く。
一合、二合、三合と打ち鳴らされ、あっという間に二桁へと突入する。
その間、アルもデーモンナイトも燃え盛る森の中を駆け回り影に隠れ、フェイントを交えながら隙を伺いながらの攻防だった。
「ファイアボール!」
『グルアアアアッ!』
時折アルが放つ魔法すらも大剣で切り裂いてしまうデーモンナイトを見て、アルは頭の中で決め手となり得る攻撃手段を思い浮かべていく。
「魔力融合しかないな」
『ウオオオオオオッ!』
「ちいっ! 好敵手を前に、魔法に頼ることになるなんて……剣士が聞いて呆れるな!」
本来ならば剣を用いた戦いをしたいと思っているが、現状はそうさせてくれない。そして、斬鉄ではデーモンナイトに刃が届かない。
そもそもマリノワーナ流は剣術であり、ナイフではその本領を発揮することができない。
他の方法もやりようはあるのだが、おそらく無駄に終わってしまうだろう。
「まあ、物は試しだな──はあっ!」
『グルアアアアッ!』
アイテムボックスの中から金属製で加工済みのソードゼロを取り出すとすぐさま振り抜く。
魔法剣ではない純粋な剣術で挑もうと試みたのだ。
──バキンッ!
しかし、数合打ち合っただけでソードゼロは砕けてしまった。
「やはり、あの大剣と打ち合うには荷が重いか!」
アルはパッと見ただけで大剣が業物であることを見抜いていた。
手元にある武器で打ち合えるのは斬鉄のみだが、間合いの差は歴然である。
速さならアルに分があるかと思いきや、大剣を扱いながらもデーモンナイトの速さは引けを取らない。
「このままでは、ジリ貧か!」
仕方ないとばかりにもう一本のソードゼロを取り出すと水属性を付与させた。
「ウォーターソード!」
『グルアッ!』
刀身に水を纏わせたソードゼロが大剣とぶつかり合う。
デーモンナイトの体に斬鉄の刃は届かずとも、打ち合う中で水の刃が撃ち出されてその体を傷つけていく。
それでも薄皮一枚が斬れるだけであり、致命傷にはならない。
そして──こちらも数合で砕けてしまう。
『ウオオオオオオッ!』
「同じことを繰り返すなって? ははっ、それはそうだな!」
そう口にしたアルが指をならすと、デーモンナイトとの間に光の玉が顕現し──激しい光を放つ。
あまりの眩しさに目を閉じたデーモンナイトだが、アルの気配は常に把握している。近づけば大剣を振り抜こうと考えていた。
『……グルア?』
しかし、デーモンナイトの予想とは異なりアルの気配は離れた位置から動かない。
光が収まり目を開けたデーモンナイトが見たものは──
「これは大剣でも受けられないぞ──ファイアボルト!」
火、水、木の三属性を融合させた魔法はデーモンナイトの反応速度を上回り直撃する。
黒煙が立ち上ぼり、衝撃波が周囲の炎を吹き飛ばしてしまう。
これで勝負が決しないなら、また一から戦略を練らなければならない。
「……まあ、そうだよな」
『……クハアアアアァァ』
黒煙の中からほぼ無傷の状態で姿を現したデーモンナイト。
魔法剣とファイアボルトという二回の魔力融合を用いたことでアルの魔力は底を尽きかけている。
このまま戦いが長引けば負けてしまうのは確実だ。そして、ダンジョンでの敗北は死に直結してしまう。
「……さて、万事休すってやつだが」
チラリと後ろに視線をやるとガルボたちもフレイムリザードと交戦中、加勢を期待することはできない。
負けることはないにしてと決着がつくまで粘るという選択肢もある。
だが、アルはその選択肢を選びたくはなかった。
(だがどうする? 斬鉄の刃は届かず、魔法も効かない。それ以前に魔力が枯渇寸前だ。このままでは動けなくなってしまう)
どれだけ頭を回転させてもカチリとピースが当てはまらない。どの選択肢を選んだとしても決定打には届かない。
そして──デーモンナイトが何もせずに待ってくれるはずもないのだ。
「……おいおい、嘘だろ!」
ファイアボルトによって右の角が折れている。そちらに対する報復なのか、デーモンナイトは今まで見せてこなかった手の内を晒してきた。
「ここで魔法か!」
『ウオオオオオオオオオオッ!』
火と闇の二属性を融合させた魔法──デスフレア。
漆黒の炎がデーモンナイトの右腕から放たれると、壁として発動したアースウォールを貫きアルへと迫ってくる。
間一髪で横に転がり回避したのだが、着弾したアースウォールと地面からは同じ漆黒の炎が勢いを増して燃え上がっていた。
「なるほど、触れただけでも一巻の終わりってわけだ」
触れたものを燃やし尽くすまで消えることのない地獄の業火。
巨大な体躯に似合わない鋭い動き、さらに強力な魔法まで加われば、決め手に欠くアルが勝てる道理がない。
「さて、どうする──」
『ウオオオオオオオオオオッ!』
「しまった!」
決め手に欠くことで思考の海に寄り掛かりすぎた。
ほんの一瞬、一秒にも満たない集中力の欠如が、右手だけではなく左手からも放たれたデスフレアの接近に気づくのを遅らせてしまう。そして──
──ドゴオオオオオオォォン。
二発のデスフレアがアルに直撃した。
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