第111話:ダンジョン・一五階層/安全地帯
モンスターが存在しない階層について、ダンジョンに潜ることが多い者にとっては常識と言われている。
各階層で呼ばれることが多いのだが、通称を
「ガルボ兄上は、この階層のことをキリアン兄上から聞いていたのですか?」
「あぁ。一二階層まで進んだところで特殊個体に襲われてな。戻ろうとしたんだが、そこにも特殊個体が多くいたんだ。上の階層にどれほどの数がいるか分からなかったから、生き残る選択肢としてここを目指した」
「その時にソウルイーターに出会わなくてよかったわね。……いや、もしかしたらまだ生まれていなかったのかもしれないわね」
「ソウルイーター、ですか?」
聞き慣れない名前の魔獣についてペリナが説明をすると、ガルボたちは一様に顔を青ざめていた。
そして、ガルボはソウルイーターを退けてここまで辿り着いたアルを見て顔には出さなかったが驚いていた。
「なるべく早く上層へ戻った方がいいでしょうね」
「それは、ソウルイーターがまた生まれる可能性があるということですか?」
「そういうこと。ポーションだって数に限りがあるし、使い過ぎれば効果は薄れていく。なるべく早く、今の状況を学園長に伝える必要があるわ」
ペリナの答えにガルボたちは顔を見合わせるとすぐに頷き立ち上がった。
「疲れはありませんか?」
「あぁ。だいぶ休んでいたし、これ以上時間を使わせるのも申しわけがないからな」
「それにしても、三人でよく一五階層まで来られたわね。四年次としても相当評価は高くなるんじゃないかしら」
「ほとんど逃げ回っていただけですけどね」
ペリナの言葉にガルボは肩を竦めながら卑下しているが、それでもペリナの評価は変わらなかった。
「逃げ回るのも結構だわ。生きて帰ってなんぼの世界なんだもの。真っ向から対峙して死んでしまったら、それこそ評価もクソもないんだからね」
「スプラウスト先生、言葉が雑になってますよ」
「私に対するみんなの扱いの方が雑ですもの、これくらいどうってことないわよ!」
「……拗ねてるんですか?」
「拗ねてないわよ!」
アルとペリナのやり取りを見ていたガルボたちは当初、口を開けたままポカンとしていたのだが、フレイヤが笑い声を漏らすとフォルトが続き、最終的にはガルボまでが笑い声をあげていた。
「ア、アル、お前は先生とそんな風に話しながらここまで来たのか?」
「だって、スプラウスト先生がこんな性格なんですよ? 仕方ないじゃないですか」
「ちょっと、アル君! 仕方ないとは何よ、仕方ないとは!」
「はいはい、二人の仲が良いのは分かりましたから、ここからは兄弟の仲直りの時間を取りましょう!」
「「……えっ?」」
「そうですね。フレイヤの言う通り、ガルボから弟君に謝ってもらいましょう」
「……謝る? ガルボ兄上が?」
「おい! フレイヤもフォルトも何を言って――」
「弟君に会ったら本当の気持ちを伝えるんだったわよねー?」
「そ、それは地上に出たらの話であって――」
「それでははぐらかされる可能性もありますから、安全なこの階層で言ってもらうのが一番ですよ」
ガルボたちだけで話が進んでおり、アルとペリナは顔を見合わせて首を傾げている。
特にアルとしてはガルボから謝られるようなことを受けた覚えがないので何を言っているのか理解できないでいた。
「……あー、アル。そのだなぁ」
「……はい」
「……その、家ではお前を避けるような真似をして、すまなかった」
「学園ではー?」
フレイヤが割って入るとギロリと睨みを利かせていたガルボだが、当の本人はどこ吹く風だ。
「……が、学園でも、お前のことを避けていた。その、すまん」
「い、いえ、俺は別に構いません。ですが、どうして俺のことを避けていたんですか?」
「そ、それは……」
「本当のことを言うんですよね?」
「う、うるさいな! 分かってるよ!」
今度はフォルトから口を挟まれてしまい顔を赤くして怒鳴っている。
その様子にアルは少しだけ安堵しており、自然と笑みを浮かべていた。
「お、お前も笑うな!」
「ごめんなさい、ガルボ兄上」
「……いや、やはりいい。理由としては……お前は、アルは冒険者を目指しているんだろう?」
冒険者を目指しているということをガルボには告げていなかったので、アルはとても驚いていた。
「そうだけど、どうしてそれを知っているんですか?」
「……チグサさんとの訓練を、見ていたからな」
「あれ、見られてたんですね」
「裏庭でやっていたら、それは目立つだろう」
当たり前のことを言われてしまい、アルはなんだか恥ずかしくなってしまう。
「それでだ。アルが心おきなくノワール家を出られるように、俺も良い成績で学園を卒業しなければならないと思っていたんだが、なかなかキリアン兄上の壁は厚くてな。それで、焦っていたんだ」
「弟君のために焦っていただなんて、こいつの態度からは全く分からなかったわよねー」
「気持ちをちゃんと伝えてあげれば、こんなにも拗れずに済んだのに」
「だから、お前たちはうるさいんだよ! お、俺だって考えた末の結果なんだからな!」
ガルボはアルがなんの憂いもなくノワール家を出られるようにと必死に努力していた。
そのことを知ったアルは、自分がガルボに嫌われていたわけではないのだと知りとても嬉しくなり、その体には力が漲っていた。
「……そっか、そうだったんですね」
「……あー、まあ、だからな。その、すまなかった。色々と変な態度を取ってしまって」
「本当ですよ。そのことを父上や母上は知っているんですか?」
「いや、知らない。こいつら以外には言っていなかったからな」
「それ、父上と母上にも伝えた方がいいですよ。特に父上は相当怒ってましたから」
「……だよなぁ」
肩を落としてしまったガルボを見て苦笑し、そしてアルはこう付け足した。
「俺が全力で援護します。だから、父上と母上には二人で報告をしましょう」
「……あぁ。ありがとう、アル」
「僕の方こそ、ありがとうございます、ガルボ兄上」
アルとガルボの誤解も解け、五人は一五階層から地上へと戻る準備を始めたのだった。
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