第110話:ダンジョン・一四階層

「んもおおおおっ! なんでこんなに魔獣が多いのよおおおおっ!」


 一四階層に下りてから数分後、アルたちはすぐに魔獣の群れと遭遇していた。

 ペリナが魔法で足止めをしながら倒せる魔獣は積極的に狩っていく。

 それでも泣き出しそうな表情が変わることはない。


「スプラウスト先生、さっきのやる気はどこに行ったんですか」

「や、やる気はあるわよ! ただ、ちょっとだけ吐き出したくなったのよ!」


 言葉通りにペリナは魔法をこれでもかと撃ちまくっている。

 主に土属性だが、通常の魔獣には闇属性も使って意識を撹乱していた。


「倒すだけが魔法じゃないのよ。戦略ね、戦略」

「でも戻る時に倒すことになりませんか?」

「……そ、その時はその時よ! 今はガルボ君たちを探すことが先決なんだからね!」


 その場しのぎとも取れるが、ペリナの言うことにも一理あるのでアルは苦笑しながらその背中を追い掛けていく。

 現状、アルは接近戦なら問題はないと伝えていたのだがペリナから反対されてしまった。

 この判断も先ほどの理由につながるのだが、ガルボたちが万全の状態であるはずもなく、もしかしたら怪我をしている可能性だってある。

 ならばとアルには体力を温存してもらい戻りに力を発揮してもらおうと考えていた。


「それにしても、アル君の言った通りで特殊個体は多いけどソウルイーターみたいなイレギュラーはいないわね」

「イレギュラーばかり現れていたらこちらの身が持ちませんよ。それこそ生徒に被害が多発してしまいますから、学園が保有するダンジョンには向かないんじゃないですか?」


 アルやペリナも知らないことだが、ユージュラッドが学園でダンジョンを保有すると決めた理由がイレギュラーが発生しにくいというものだった。

 これはアルが指摘した通りに生徒への危険をできるだけ少なくするためなのだが、まさか多くの生徒が巻き込まれるようなイレギュラーが発生するとは予想外だったのかもしれない。


「実戦ができるっていうのも、色々と考えないといけないのね」

「……えっと、スプラウスト先生は何も考えてなかったんですか?」

「し、失礼ね! ちゃんと考えてましたよ! だからこそ、最初のパーティ訓練では私も頻繁にダンジョンに潜ってみんなの安全を確かめていたんだから! アル君たちが見つからなかった時の私の気持ちも考えてよね!」


 そんな会話をしながら進んでいると、ついに一五階層へと続く階段を発見した。


「……スプラウスト先生。ガルボ兄上たちは本当にここまで潜っているんでしょうか」

「下層へと進んでいたなら、そうだと思うわ」

「何故そう言い切れるんですか?」

「ダンジョンには切りのいい階層で魔獣が存在しない特別な階層があるのよ」

「そうなんですか? ……それが、一五階層なんですね」

「まあ、たぶんだけどね。切りのいい階層ってだけで、一〇階層だったり二〇階層だったりもするからね」

「……ガルボ兄上がその階層について知っていたら、特殊個体の多い階層を戻るよりも下層に向かうってことですね」


 この選択が吉と出るか凶と出るかは分からない。

 だが、ガルボはアルとは話をしなかったがキリアンとはよく話をしていたことを覚えていたアルは一縷の望みを掛けることにした。


「……行きましょう」

「……そうね」


 階段を一段ずつ、慎重に下りていく二人。

 汗が溢れ出す火山のダンジョンで感じていた熱波とは異なる空気が下から流れ込んでくるのを肌で感じ取る。

 一五階層から漏れ出した光を確認すると――そこはダンジョンと呼んでいいのか不安になってしまうくらいに緑あふれた空間になっていた。


「……す、すごい」

「……うっそ、川が流れてるわよ」


 まるで森の中に流れる小川の畔にやって来たような感覚になってしまう。

 だが、ここには先ほどまで感じていた敵意は感じられない。ということは、ここがペリナが言っていた魔獣が存在しない階層なのだとすぐに理解することができた。


「……あ、兄上、ガルボ兄上!」


 アルは咄嗟に声をあげていた。

 この階層ならどれだけ大声をあげても問題にはならない、そう判断しての行動だった。

 すると、小川に近い物陰から誰かが顔を覗かせた。


「……ア、アル、なのか?」

「ガルボ兄上! よかった、無事だったんですね!」

「……あ、あぁ」

「うっそ! 弟君が助けに来てくれたの!?」

「これは何というか、末恐ろしいな」

「あのー、私もいるんですけどー?」


 まるで忘れされたように誰も相手をしてくれなかったのでペリナが拗ねたようにアルとガルボたちの間に割って入ってきた。


「ここで嫉妬とかあり得ないですよ、スプラウスト先生」

「そうですよー! 兄弟の涙の再会なんですからー!」

「ガルボが涙を流すとは思えませんけどね」

「お、お前たちなぁ」

「……みんな、私の扱いが雑過ぎないかなあ!?」


 魔獣の存在しない階層だからこそ、こうして再会を喜ぶことができている。

 これから地上へと戻らなければいけないのだが、今だけは一時の休憩を挟むのもいいかもしれない。

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