第106話:ダンジョン・十一階層/一二階層
到着した十一階層では、ペリナが魔法を遺憾なく発揮してくれた。
ここまではアルが攻撃を担ってくれたのだが、さらに下層へと進むならアルの魔力を温存すべきだと判断したのだ。
ただ、この調子だとペリナの魔力が尽きてしまうかもしれないとアルも積極的に前へ出て斬鉄を振り抜いていく。
「しかし、本当に卓越した剣術よね」
「将来は冒険者を目指してますから、これくらいはできて当然ですよ」
「うーん、魔法だけを見ても優秀なんだから、差別が少ない都市の魔法師団に入隊もできそうなんだけどなぁ」
真剣に考えてくれているペリナには悪いが、アルにその気は全くなかった。
それに今の口ぶりでは差別をしない都市ではなく、差別が少ない都市と言っている。
差別がない都市、というのは存在しないのだろうとアルは内心で思っていた。
「スプラウスト先生、階段を見つけましたよ」
そんなことを考えていると、通路の奥に下層へと向かう階段を発見した。
だが、その前にはまたも特殊個体が陣取っており戦闘は避けられない状況だ。
「先に行きますね」
「えっ! ちょっと、アル君!?」
周囲には特殊個体のフレイムリザード一匹のみ。
ならば時間を掛ける必要もないとアルは一気に駆け出した。
アルの接近に気づきたフレイムリザードが口を開けて炎を吐き出そうとしている。
「遅い──弧閃!」
『ゲバッ!』
まさに一瞬だった。
瞬歩による加速から放たれた弧閃は、アルが今まで見せてきた中で一番の速度を誇っている。
故に、特殊個体のフレイムリザードとはいえ何もできずにその首を落とされてしまった。
「……えっと、マジ?」
「スプラウスト先生、早くいきましょう。時間がもったいないですよ」
「なんだか、私が足手まといになってないかしら」
そんな不安を感じながら、二人はすぐに一二階層へと下りていく。
ペリナはアルの背中を見つめながら、何故かとてつもない安心感を覚えており不思議な気分になっていた。
「……ねえ、アル君」
「なんですか?」
「アル君って、以前にも誰かを守りながら戦っていたことがあるのかしら?」
ペリナの口から不意に飛び出してきた質問に、アルは足を止めて振り返る。
「……まさか。俺はダンジョンだってここが初めてなんですよ? 魔獣の存在だってパーティ訓練が始まるまではしらなかったんですから、それはあり得ませんよ」
「……そうよね。ううん、ごめんね、変なことを聞いちゃって」
「構いませんよ。それよりも、そろそろ一二階層に到着しますよ」
前を向いてそう口にしたアルだったが、内心ではとてもドキドキしていた。
(ぜ、前世の記憶があるなんて言えないよなぁ。父上や母上にも言っていないのに)
まさかペリナに勘づかれるとは思っていなかったアルとしては、これ以上は全力の戦いを見せられないと思う反面、さらに厳しい戦いが待っているとなると手を抜くなんて考えられず、どうしたものかと考えてしまう。
ただ、この世界に転生者がどれほどいるのかと考えた時、頻繁に現れるなんてことはないだろうと自分に言い聞かせて変わらず戦おうと決めてしまった。
(俺みたいな奴が別にいたら、それこそこの世界がおかしなことになりかねないだろう)
大人の知識を持ち、さらに実力まで有している子供なんて、異端以外の何者でもない。
アルがそうだとバレてしまえば、リリーナたちからも距離を取られ、家族からも見放され、国すらも追われてしまうかもしれない。
そう考えてしまうと、しばらくは誰にも打ち明けられないかもしれないと思ってしまう。
「……なんか、面倒なことになったなぁ」
「何か言った、アル君?」
「いえ、なんでもありませんよ」
あはは、と笑顔で誤魔化しながら辿り着いた一二階層も火山のダンジョンだった。
しかし、上層とは異なる点がある。それは――
「……魔獣の気配が、しませんね」
「そうなの? ……うーん、私にはさっぱり分からないわ」
異様な雰囲気を感じ取ったアルは斬鉄を握りしめて歩き出す。緊張感がペリナにも伝わったのか、杖を握る手に力が入っていた。
「……本当に、魔獣が出てこないわね。上とはえらい違いだわね」
「この階層に何かがいる、それは間違いないと思います」
「そうなの?」
「はい。七階層で特殊個体のブラックウルフと戦った時なんですが、その時も今みたいに魔獣の姿を見かけなかったんです」
「つまり、一二階層でも特別強い特殊個体がいるってことね」
アルは振り返らずに無言で頷いた。
だが、アルの予想とは裏原に特殊個体の魔獣は姿を見せることなく、さらに下層へと繋がる階段を見つけてしまった。
「……スプラウスト先生、これを見てください」
「……嘘、こんなことあるの?」
アルが指差した先にあったのは、下層へと下りていく大きな足跡だった。
「階層の魔獣が階を跨ぐなんて、前代未聞よ」
「やはり普通はあり得ないんですか?」
「ないわけじゃないけど、ほとんどお目に掛かれないわね」
「ということは、ここでそのイレギュラーが発生しているということですか」
「これ、私たちの手に負えるのかしら」
溜息をつきながらそう口にしたペリナだったが、アルの中ではここまできて引き返すという選択肢はなかった。
「行きましょう」
「……もちろんよ。ガルボ君たちが待っているんだもの」
気を引き締め直した二人は、休むことなくさらに下層である一三階層へと向かった。
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